漁書日誌 3.0

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梅雨に入った窓展

暑い。もう梅雨は明けたのではないかという金曜日、窓展初日である。会場10時の5分前くらいに到着、すぐ開場。まずはあきつ書店の棚に向かう。

特にこれというものはないが、この安さならば買っておくか、ちょっと興味あるなというところを抱えていく。しかしまあ窓展は趣味展のようにお客用のカゴがないので、ドッサリ抱えて大混雑の棚を見て行くのは至難の業で、しばしば抱えている本を落としそうになる。うっかり置くと他の客に持って行かれるし、なんとも。ふと背中がわからない本を抜き出して見ると、何故これがここにという仏訳版「サロメ」が。ボロいがアラステア挿絵のアレである。おおと抱える。それから博文館の少年文学シリーズが1冊2〜400円くらいでドッサリあったが、もちろん、鏡花作品も併録している「侠黒児」などはない。ただし、安いは安いのだが表紙が改装されているか表紙に大きな蔵書票が貼付されている。迷って、比較的きれいな状態の「二人椋助」を抱える。

その後、みはるやかわほり等々興味ある本屋の棚を見て回り、抱えた品を帳場に預けて友人らと昼食。冷たいぶっかけうどんを食べ、田村書店を覗き、またもや小見山のガレージで3冊千円の三島関連書を買ってしまう。さぼうるで一服してから再度会場へ。吉行淳之介の「鞄の中身」特装が2000円であり、まあこれは買っておくかなと、しかしそうなると総額5千円近くいってしまうので、あれこれと削る。赤紙の実物のようなものが100円であったが、赤紙への記入見本のようであった。これも戻す。そしてあれこれ戻し、逡巡に逡巡を重ねたが、背革だと思っていた装幀素材が、革のようなクロスであると気がつき、何故か一気に醒め、それを棚に戻してお会計へ。

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尾崎紅葉「二人椋助」(博文館:少年文学)明治45年3月15日14版蔵書票貼付200円

関露香「学生憤起録」(岡崎屋書店)明治40年6月8日5版400円

巌谷小波小波世間噺」(日本書院)大正10年6月12日再版カバ欠痛300円

谷崎潤一郎「卍」(春陽堂文庫)昭和7年4月1日初200円

「学生憤起録」は知らない本だが、明治期の学生啓蒙書的なものは安ければ買うようにしている。学生の実態がどういうものだったのか、遠回りかもしれないがこういった本からあれこれと浮かび上がってくる。「二人椋助」は上記に書いた通り。巻頭口絵に他に、折り込みの多色刷り木版挿絵が一葉入っている。小波のは回想録系のもの。

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「愛書趣味」9号(昭和2年2月)200円

「書痴往来」(昭和32年6月)200円

「アートシアター」(「ツィゴイネルワイゼン」パンフ)100円

今村秀太郎「江川と野田本」(古通豆本)昭和45年11月10日400円

「愛書趣味」は、昭和2年1月におこなわれた明治文芸研究資料展覧会の特集号のような中身だったので購入。震災があって明治ノスタルジアのみならず明治文化研究会などによって改めて明治の掘り起こしがはじまっていったが、書物においけるその一環としてのものだろう。

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Oscar Wilde : SALOME, G.Cres, Paris, 1923印痛書込背補修400円

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写真の通りかなりボロい。日本人の印、中には単語に線を引き訳が万年筆で書いてあったりする。しかしアラステアの挿絵は綺麗な状態。まあメインは挿絵だしいいか。この本はいつか買おうと思っていたのだが、だいたい日本での相場は1万円くらいか。アラステアの挿画、黒にマット黒とかなかなか凝った印刷。これはボロいが嬉しい収穫であった。

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三島由紀夫「黒蜥蜴」(牧羊社)昭和44年5月20日初版凾凾汚

北垣隆一三島由紀夫精神分析」(北沢図書)初凾帯

中康弘通「切腹〈歴史と文芸〉」(私家版)1979年2月3日、以上3冊揃で1000円

この3冊は小見山ガレージでの買い物。「黒蜥蜴」は凾の背は焼けており角が擦れているのだが、しかし3冊千円ならと買ってしまった。中康のはもしかしたら持っていたかも。

ギュウギュウに絞っての買い物であったのだが、この後国会図書館マイクロフィルムをコピーしていたら、軽く倍のコピー代がかかってしまいとほほな金欠なのであった。

急ぎ足の和洋会

その日は急いでいた。金曜日である。13時15分バスタ新宿発の高速バスで山中湖の三島由紀夫文学館へ行く用事があった。その前、ほんの20分程度だが、和洋会の会場に立ち寄る。というのも、目録注文品があたったからである。

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フランセス・イエイツ「薔薇十字の覚醒」(工作舎)初カバ1000円

川村花菱・山村耕花「大震災印象記 大正むさしあぶみ」(報知新聞社出版部)大正13年3月15日背裏表紙改装300円

まずは会場で買ったもの。イエイツなんて今更もいいところだが、ケチケチして買っていなかった。千円というのは今までみた最低価格。花菱が文を書き、山村耕花が50葉の挿絵を描いている「大正むさしあぶみ」は震災ドキュメント。挿絵はモノクロのものから多色刷のものまでいろいろ。

それから注文品。

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「辻留清談」無刊記2500円

これである。存在は数年前の扶桑書房目録で知った。その時は入手叶わず、以来探していたものである。改めていうまでもなく、懐石の辻留(辻嘉一)の発行だが、東京駅の大丸の地下に出店していたものを、今度銀座の文藝春秋ビルの旧館3・4階に大々的に店を出すことになり、その記念で出したものらしい(wikiだと東京最初の店が赤坂とあるが間違いか)。

志賀直哉谷崎潤一郎、里見トン、高浜虚子小島政二郎らがお祝いの言葉を寄せ、吉田茂や谷崎、志賀、吉井勇梅原龍三郎らと辻の対談などを収録している。対談はおそらく「銀座百点」掲載の再録だろうなと思う。谷崎のお祝いの言葉などは短いものだが、こちらは全集未収録で今まで知られていなかった逸文ではないか。ともかく、粗末な冊子で刊記すらないが、おそらく当時の辻留店舗で配布したものだろう。ちょっと高かったが仕方がない。

で、荷物になるので買った本は隣の郵便局からレターパックで自宅に送付して、一路新宿に向かったのであった。

5月の暑い趣味展

趣味展である。久しぶり。今日は全国的に暑く、5月だというのに東京では最高気温30度。体感的にはそこまではという感じでもあったが、異様であるというほかない。9時45分くらいに到着、10時開場。

まず扶桑書房の棚へ。なんだか今日はやたら里見トンの著作がズラリと出ていた。ふと棚の最上段を見ると「薄氷遺稿」があるので手に取った。梶田半古の妻で作家の北田薄氷(うすらい)に遺稿集で、半古が私家版で出したもの。春陽堂が作成したようだ。ちょっとぼろいがこの値段ならばと抱える。

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梶田半古編纂「薄氷遺稿」(私家版)明治34年11月5日痛4000円

「校訂 一葉全集」(博文館)明治43年3月5日28版400円

「一葉全集」は既に重版を持っているのだが、それは初版から続く表紙木版装幀バージョン。重版の途中から今日買ったような感じで意匠は同じだが木版装幀ではなくなる。

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佐藤惣之助「市井鬼」(京文社)大正11年11月10日凾欠500円

南江二郎「詩集 異端者の恋」(民衆文業社)大正10年9月1日裸痛200円

長田幹彦全集別冊・歌謡随筆」(非凡閣)昭和11年11月15日凾欠200円

「市井鬼」は既に凾付を所持しているが、安かったので悔しく買ってしまった。「異端者の恋」というのは正体不明の本だが、詩集とあるも詩劇の形式で綴られているもの。表紙にビアズレーを使っているし、200円ならばと購入。幹彦全集も、凾がついていればなあというのもあるが、まあ随筆読めればよいかと。

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池水瑠璃之助「紅塵秘抄」(東京堂)大正10年9月15日凾美800円

北原白秋「白秋小唄集」(アルス)大正8年9月5日再版凾美500円

「紅塵秘抄」ここ数回の古書展で安く見かけて、凾欠だったり凾背欠だったり、買うかどうかと思っていたが、やはりあれを買わなくて正解だった。これは前の持ち主が表紙に手製のカバーを付けていたからか本体は極美で献呈署名入。著者は池長孟である。自費出版のようだが、奥付の発行者は長谷川巳之吉。そしてもう1冊の白秋のもすでに持っているが、状態がよいので。こちらは恩地孝四郞ではなく、資生堂意匠部の矢部季による装幀。

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佐藤春夫訳「ぽるとがるぶみ」(人文書院)昭和25年12月20日重版帯美200円

アン・リネル(松尾邦之助訳)「赤いスフィンクス」(長嶋書房)昭和31年9月1日初版カバ印400円

長谷川紘平「本と校正」(中公新書)200円

嬉しいのはやはりアン・リネル唯一の邦訳小説「赤いスフィンクス」。マックス・シュティルナーとかの流れで以前から気になっていた。見返しに奢灞都館の蔵書印が捺してあった。旧生田蔵書、こんなところにも流れていたのか。

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「文芸文化」(昭和18年3月)300円

「婦人文庫」(昭和23年5月)300円

それぞれ三島由紀夫が掲載されているため。500円だったら買わなかったと思う。

お昼、取り置き分を帳場に預けて昼食に外出。食べてから田村書店を覗いて、小宮山書店の角を曲がってふと見ると、ガレージセールのところに「三島由紀夫関連書3冊1000円」と出ていた。日本語の本はほとんど持っているものであったが、翻訳書が何冊か紛れており、ちょっと珍しいだろうと購入してみる。

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Giuseppe Fino Mishima ecrivain et guerrier, Edition de la Maisnic,Paris,1983

洪二培訳「不道徳教育講座」微文出版社、ソウル、1970年12月15日カバ凾

劉慕沙訳「命売ります」三三書坊、台北、民国73年12月3版

ジュゼッペ・フィーノのは三島論。元々イタリアで刊行されたものの仏訳本。後者2つはハングル訳、中国語訳である。韓国のやつ、「不道徳教育講座」の翻訳でこの装幀というのは時代をうかがわせる。「命売ります」はオリジナルの挿絵がところどころに入っている。

そういえば、今週届いた本。

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森律子「妾の自白」(日本評論社大正8年5月15日初版凾欠5000円

これは先週行けなかった愛書会古書展の目録注文品。木版装ではないとはいえ。夢二装なのでどうかなと思っていたのだが、無事入手。これより前に出ている著者の西洋旅行記は、全文が文語体で読みづらかったので身構えていたが、この本は一般的な言文一致体。楽しく読めそうだ。

 

連休古書

ここのところの古書。

まずは土曜日の連休初日。ぐろりや会古書展には間に合わず、扶桑書房事務所へ。新たに出来た100円均一棚から2冊を抜き出し購入。

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鈴木善太郎「紙屋橋」(野田書房)昭和13年7月24日初版特製凾100円

宇野浩二「文章往来」(中央公論社昭和16年10月28日初版凾100円

鈴木善太郎はモルナールの翻訳で知られているだろうが、「暗示」やら「人間」といった著書に興味がある。これも小説集らしいので、というか、野田書房なので買ってみたといったところ。宇野浩二は文壇回想ものが少なくなく、安ければ買うようにしている。これは葛西善蔵あたりの回想などを収録。

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「紙屋橋」は池田遙邨による多色刷木版画装。角が面取りしてある。木下杢太郎の「雪櫚集」特製本みたいだなと思ったことであった。天小口は天銀?酸化して黒くなってしまったような感じ。並製は未見だが、特製はしっかりした造本でさすが野田書房という気もする。

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小杉天外「女夫星」(春陽堂)明治33年10月13日初版2099円

こちらはネットオークション落札品。今更小杉天外なんぞという感じもするのだが、「写実」というものが意識されるようになり、それまでの家庭小説とどう異なるのか、なにが意識されていたのかという観点から天外は安ければちょびちょび買っていたが、「コブシ」とか永遠に積読かしら。

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昭和の日である今日は、三鷹のSCOOLに吉田アミ「サマースプリング」(太田出版)の舞台化作品を見に行く。15時開演の回はアフタートークに同書編集の郡淳一郎氏と木村カナ氏が登壇でこれ目当てでもある。舞台化といっても演劇化というのではないパフォーマンス。なんというか、ある意味圧倒的なステージであった。

その帰るさ、せっかく三鷹くんだりまで出たのだからと、悪い癖で荻窪にて途中下車。ささま書店を覗いて、3冊ほど購入。まずは外の均一棚から。

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谷崎潤一郎細雪」(中央公論社)昭和24年12月20日初版凾100円

岡野他家夫「明治の文人」(雪華社)昭和38年11月10日初版凾100円

細雪」は初刊3冊本の合本縮刷で、本文2段組。

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たまたまこういう栞が挟まれていたが、ここで「縮刷版」と版元が銘打っている。ただし、縮刷版といっても、戦前の縮刷版はもっと活字が小さく判型も袖珍本であるものというようなものであったが、これは四六判か。「縮刷」自体の意味が変わったのか。

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澁澤龍彦「黒魔術の手帖」(桃源社昭和36年10月5日初版凾帯2000円

これはちょっと高かったが、実は持っていなかった初版でしかもコンディションがよい。そのうえ、当時の献呈箋と、桃源社の矢貴昇司の識語入献呈名刺が挟まっていたのが珍しく購入しようと決めた。これはちょっと嬉しいな。

立ち寄り土曜

本の散歩展古書展。初日の昨日は仕事で行けなかったので、2日目の本日、ちょいと覗きに行く。もっとよく見れば細かいものがありそうであった1階ガレージだが、雑誌を2冊。その後、2階の会場にいき、ザーッと。注文品はない。今日は出版関係の回想録やら社史やらあれこれ目についた。大毎の社史とか500円なら買えばよかったかもしれないが、きりがないしお金も節約したいと買わず。結局、以下のものを購入。

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桜井均「奈落の作者」(文治堂書店)昭和53年8月25日凾500円

雑誌「南北」「猟奇画報」「日本近代文学」各200円

「南北」は寺山戯曲の初出。「奈落の作者」は、もうとうに図書館で読んでいたのだが、千円以下でという縛りを自ら課してもう15年くらい探していた。1500円くらいで買えるのだが、ケチの骨頂である。これは御存知、表題作であるエッセイが倉田啓明について語っている。また北島春石が柳川春葉の「生さぬ仲」の代作をしていたことなどもこの本で知った。それから昭和初期の「犯罪科学」あたりも200円でゴロゴロしていたが、状態が悪いので見送る。ただし、藤沢衛彦の雑誌「猟奇画報」は、パラパラ見てみると橘小夢「河童」が口絵だったので購入した次第。

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確か、戦前に出た英訳版谷崎選集の口絵にもなっていなかったか。戦前からちゃんとこうして他のメディアでも紹介されていたのだなあと。夢二美術館が大分前に橘小夢展をやったときのカラーコピーで作ったパンフを持っているのだが、そのパンフで詳しいことを知った(このカラーコピーによるパンフも実は2種類ある)。

それから、今日棚で見つけてちょっと掘り出し気分になったのがこれ。

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京都風俗研究会編「表現派図案集」(内外出版)大正11年帙入2000円

大判の帙に入り、解説の冊子と無綴じの図版50葉(内、3葉欠)。欠があるからこの値段なのかもしれないが、工芸品から書物の装幀、生地の柄等々、表現主義柄の写真集とでもいうべきか。ちょうど「カリガリ博士」が日本公開されて「表現主義」「表現派」という言葉がちょっとした流行になった頃の新聞雑誌記事を調べてみたことがあるのだが、表現主義柄の着物まで売り出されていて、これは興味深いと思ったことであった。

窓で學天則

もう1週間経過してしまったが、今月の12日は窓展の初日であった。どうしても書き上げなければいけない原稿があり、朝イチは諦め、夕方用事で都内に出るついでに会場に立ち寄る。17時半。閉場30分前である。これといったものは残っていないだろうな、いや残っていたら金欠だしまずいなというくらいのものであった。といっても、1点注文品があった。注文品は当たり、それを引き取らなければというのもある。

で、買ったもの。

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棟方志功「板極道」(中央公論社)昭和39年10月8日初版凾外凾帯1500円

目録注文品。これといって珍しいものでもなく、既に文庫で持ってはいるのだが原稿用に実物が欲しかった。序文は谷崎潤一郎

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西村真琴「大地のはらわた」(刀江書院)昭和5年9月18日5刷凾欠900円

著者は西村晃の父親で、あの學天則の人。表紙委貼付してある写真がそれ。エッセイや小説などを集めた本。凾欠だが状態がとてもよい。ちょっとバウハウスなノリの装幀も昭和初期らしい感じ。

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「第二近代情話選集」(「苦楽」特別附録)300円

「書物礼讃」(昭3・7)200円

「詩林泝洄」(昭38・2)200円

今回一番嬉しかったのは、「第二近代情話選集」。ようやく入手で、これでおそらく「苦楽」の附録冊子は全部揃ったか。「詩林泝洄」は同人誌だが、ちょっと気になる記事があって。「書物礼讃」は、表紙に捺されたスタンプのために購入。

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擦れてしまっているがこれは「内務省」「3・7・4」「正本」とあるのだろう。内務省に納本して、検閲チェックを受けてOKになり残しておく正本ということだろうか。記載発行日の翌日の日付である。中には1箇所だけ、ふと目の赤鉛筆でラインが引いてある箇所があるのだが、これが検閲チェックした痕跡だろうか。

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「苦楽」附録の冊子3冊。大正13年1月の創刊号から、3月、7月と出ている。これ以降も出ているのだろうか。

それから、小野夕馥氏の森開社の新刊、詩誌「螺旋の器」3号が届いた。

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版元直接注文のみ。限定300部記番。菊池幽芳によるヴィリエ・ド・リラダンの翻訳、八木昇による澁澤龍彦「さかしま」に関する回想など掲載。順調に刊行されていて何よりである。

魯鈍な春

一昨日だったか、扶桑書房の目録速報が届いた。既に売り切れていたものもあったが、しかし、個人的にはこれというものを確保できた。小川未明の本、2冊である。これはこのブログでしばしば書いて来たことであるけれども、繰り返せば、例えば小山内薫の戯曲ではなく小説とか、小川未明の童話ではなく小説というものが好きで、一般的に他ジャンルの作家が小説に手を出しているものに、たまに嗜好に合うものがあって(偏屈なマイナーポエット趣味である)よいのである。で、小山内のはだいたい揃ったし(情話系はもういいやと)、小川未明の初期から大正半ばあたりまでの、不思議にデカダンな短篇群をちょびちょびと集めている。といっても、必ずしも小説として出来がいいからというのではない。短篇であるにもかかわらずつくりとして全体がボヤッとしていたり、似たテイストのエスキースのようなものが連続でつづいたりと、眠くなるようなものも少なくはないのだが、そうしたなかに通底するなにかしらアンニュイなテイストが好みなのである。好み、という徹底的にワタクシの趣味の本。リラダンふうにいえば「文学的意味? そんなものは召使いどもに任せておけ」というわけだ。

で、今回は持っていなかったところが手を出せる感じであったので、いったというわけ。

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小川未明「魯鈍な猫」(春陽堂大正元年9月15日初版凾欠印4000円

小川未明「白痴」(文影堂書店)大正2年3月13日初版凾欠印4000円

右のが「魯鈍な猫」。ともに角背上製で、「白痴」の方は天金。「白痴」にはアート紙刷の原色肖像が口絵となっており、片上伸の序文が入っている。どちらも短篇集で、それぞれ異なる画家が装幀している。もとより完本でこの辺のものはなかなかの高価なものになるので、外装欠で十分。とはいえ、「愁人」なんかは夢二装だったりしてそれでもまあ手が出ない。といって揃えようというほどでもないので、まあチャンスがあればという感じであるが、そうであってもあんまり見ないところが入手できると嬉しいものである。

そんなこんなで、今日は和洋会の初日。注文品もなく、会場をチラと覗くも特にこれといったものもない。ザーッと見て、他の支払いもあるしということで何も買わず早めに会場を後にして、今度は路上である。

今日は、神保町さくらみちフェスティバル・古本まつりの初日でもある。といって18時閉店のそのときは17時55分。盛林堂が出ているというので向かって、ご店主と話しながら棚を見る。午前中はあれこれあったというが、後の祭り。ということで、文庫と新書を。

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江戸川乱歩推理文庫「子不語随筆」(講談社)カバ300円

江戸川乱歩推理文庫「奇譚/獏の言葉」(講談社)カバ500円

水沼辰夫「文選・植字の技術」(印刷学会出版部)昭和47年3月15日6刷カバ200円

江戸川乱歩推理文庫は、末尾の方の巻のみポツポツ買っているが、高かった「奇譚」はもしかしたら持っていたかも…。

で、その後喫茶店に落ち着き、出がけにポストに届いていたのでそのまま持って来た本を取り出す。

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エフライム・ミカエル(白鳥友彦訳)「占星術師ハリアルテス」(森開社)定価

森開社の新刊である。限定300部のうち200部頒布。フランス装たとう収め。記番。珍しくアート紙刷の口絵貼付。これは頼んで訳者署名本をわけてもらった。スタイリズムも相変わらず、森開社らしい瀟洒な装幀というか造本。表紙の箔押しも効いている。直接注文のみ。こちらを参照のこと。