漁書日誌 3.0

はてなダイアリー廃止(201901)を受けてはてなブログに移設しました。

連休古書

ここのところの古書。

まずは土曜日の連休初日。ぐろりや会古書展には間に合わず、扶桑書房事務所へ。新たに出来た100円均一棚から2冊を抜き出し購入。

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鈴木善太郎「紙屋橋」(野田書房)昭和13年7月24日初版特製凾100円

宇野浩二「文章往来」(中央公論社昭和16年10月28日初版凾100円

鈴木善太郎はモルナールの翻訳で知られているだろうが、「暗示」やら「人間」といった著書に興味がある。これも小説集らしいので、というか、野田書房なので買ってみたといったところ。宇野浩二は文壇回想ものが少なくなく、安ければ買うようにしている。これは葛西善蔵あたりの回想などを収録。

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「紙屋橋」は池田遙邨による多色刷木版画装。角が面取りしてある。木下杢太郎の「雪櫚集」特製本みたいだなと思ったことであった。天小口は天銀?酸化して黒くなってしまったような感じ。並製は未見だが、特製はしっかりした造本でさすが野田書房という気もする。

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小杉天外「女夫星」(春陽堂)明治33年10月13日初版2099円

こちらはネットオークション落札品。今更小杉天外なんぞという感じもするのだが、「写実」というものが意識されるようになり、それまでの家庭小説とどう異なるのか、なにが意識されていたのかという観点から天外は安ければちょびちょび買っていたが、「コブシ」とか永遠に積読かしら。

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昭和の日である今日は、三鷹のSCOOLに吉田アミ「サマースプリング」(太田出版)の舞台化作品を見に行く。15時開演の回はアフタートークに同書編集の郡淳一郎氏と木村カナ氏が登壇でこれ目当てでもある。舞台化といっても演劇化というのではないパフォーマンス。なんというか、ある意味圧倒的なステージであった。

その帰るさ、せっかく三鷹くんだりまで出たのだからと、悪い癖で荻窪にて途中下車。ささま書店を覗いて、3冊ほど購入。まずは外の均一棚から。

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谷崎潤一郎細雪」(中央公論社)昭和24年12月20日初版凾100円

岡野他家夫「明治の文人」(雪華社)昭和38年11月10日初版凾100円

細雪」は初刊3冊本の合本縮刷で、本文2段組。

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たまたまこういう栞が挟まれていたが、ここで「縮刷版」と版元が銘打っている。ただし、縮刷版といっても、戦前の縮刷版はもっと活字が小さく判型も袖珍本であるものというようなものであったが、これは四六判か。「縮刷」自体の意味が変わったのか。

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澁澤龍彦「黒魔術の手帖」(桃源社昭和36年10月5日初版凾帯2000円

これはちょっと高かったが、実は持っていなかった初版でしかもコンディションがよい。そのうえ、当時の献呈箋と、桃源社の矢貴昇司の識語入献呈名刺が挟まっていたのが珍しく購入しようと決めた。これはちょっと嬉しいな。

立ち寄り土曜

本の散歩展古書展。初日の昨日は仕事で行けなかったので、2日目の本日、ちょいと覗きに行く。もっとよく見れば細かいものがありそうであった1階ガレージだが、雑誌を2冊。その後、2階の会場にいき、ザーッと。注文品はない。今日は出版関係の回想録やら社史やらあれこれ目についた。大毎の社史とか500円なら買えばよかったかもしれないが、きりがないしお金も節約したいと買わず。結局、以下のものを購入。

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桜井均「奈落の作者」(文治堂書店)昭和53年8月25日凾500円

雑誌「南北」「猟奇画報」「日本近代文学」各200円

「南北」は寺山戯曲の初出。「奈落の作者」は、もうとうに図書館で読んでいたのだが、千円以下でという縛りを自ら課してもう15年くらい探していた。1500円くらいで買えるのだが、ケチの骨頂である。これは御存知、表題作であるエッセイが倉田啓明について語っている。また北島春石が柳川春葉の「生さぬ仲」の代作をしていたことなどもこの本で知った。それから昭和初期の「犯罪科学」あたりも200円でゴロゴロしていたが、状態が悪いので見送る。ただし、藤沢衛彦の雑誌「猟奇画報」は、パラパラ見てみると橘小夢「河童」が口絵だったので購入した次第。

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確か、戦前に出た英訳版谷崎選集の口絵にもなっていなかったか。戦前からちゃんとこうして他のメディアでも紹介されていたのだなあと。夢二美術館が大分前に橘小夢展をやったときのカラーコピーで作ったパンフを持っているのだが、そのパンフで詳しいことを知った(このカラーコピーによるパンフも実は2種類ある)。

それから、今日棚で見つけてちょっと掘り出し気分になったのがこれ。

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京都風俗研究会編「表現派図案集」(内外出版)大正11年帙入2000円

大判の帙に入り、解説の冊子と無綴じの図版50葉(内、3葉欠)。欠があるからこの値段なのかもしれないが、工芸品から書物の装幀、生地の柄等々、表現主義柄の写真集とでもいうべきか。ちょうど「カリガリ博士」が日本公開されて「表現主義」「表現派」という言葉がちょっとした流行になった頃の新聞雑誌記事を調べてみたことがあるのだが、表現主義柄の着物まで売り出されていて、これは興味深いと思ったことであった。

窓で學天則

もう1週間経過してしまったが、今月の12日は窓展の初日であった。どうしても書き上げなければいけない原稿があり、朝イチは諦め、夕方用事で都内に出るついでに会場に立ち寄る。17時半。閉場30分前である。これといったものは残っていないだろうな、いや残っていたら金欠だしまずいなというくらいのものであった。といっても、1点注文品があった。注文品は当たり、それを引き取らなければというのもある。

で、買ったもの。

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棟方志功「板極道」(中央公論社)昭和39年10月8日初版凾外凾帯1500円

目録注文品。これといって珍しいものでもなく、既に文庫で持ってはいるのだが原稿用に実物が欲しかった。序文は谷崎潤一郎

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西村真琴「大地のはらわた」(刀江書院)昭和5年9月18日5刷凾欠900円

著者は西村晃の父親で、あの學天則の人。表紙委貼付してある写真がそれ。エッセイや小説などを集めた本。凾欠だが状態がとてもよい。ちょっとバウハウスなノリの装幀も昭和初期らしい感じ。

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「第二近代情話選集」(「苦楽」特別附録)300円

「書物礼讃」(昭3・7)200円

「詩林泝洄」(昭38・2)200円

今回一番嬉しかったのは、「第二近代情話選集」。ようやく入手で、これでおそらく「苦楽」の附録冊子は全部揃ったか。「詩林泝洄」は同人誌だが、ちょっと気になる記事があって。「書物礼讃」は、表紙に捺されたスタンプのために購入。

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擦れてしまっているがこれは「内務省」「3・7・4」「正本」とあるのだろう。内務省に納本して、検閲チェックを受けてOKになり残しておく正本ということだろうか。記載発行日の翌日の日付である。中には1箇所だけ、ふと目の赤鉛筆でラインが引いてある箇所があるのだが、これが検閲チェックした痕跡だろうか。

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「苦楽」附録の冊子3冊。大正13年1月の創刊号から、3月、7月と出ている。これ以降も出ているのだろうか。

それから、小野夕馥氏の森開社の新刊、詩誌「螺旋の器」3号が届いた。

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版元直接注文のみ。限定300部記番。菊池幽芳によるヴィリエ・ド・リラダンの翻訳、八木昇による澁澤龍彦「さかしま」に関する回想など掲載。順調に刊行されていて何よりである。

魯鈍な春

一昨日だったか、扶桑書房の目録速報が届いた。既に売り切れていたものもあったが、しかし、個人的にはこれというものを確保できた。小川未明の本、2冊である。これはこのブログでしばしば書いて来たことであるけれども、繰り返せば、例えば小山内薫の戯曲ではなく小説とか、小川未明の童話ではなく小説というものが好きで、一般的に他ジャンルの作家が小説に手を出しているものに、たまに嗜好に合うものがあって(偏屈なマイナーポエット趣味である)よいのである。で、小山内のはだいたい揃ったし(情話系はもういいやと)、小川未明の初期から大正半ばあたりまでの、不思議にデカダンな短篇群をちょびちょびと集めている。といっても、必ずしも小説として出来がいいからというのではない。短篇であるにもかかわらずつくりとして全体がボヤッとしていたり、似たテイストのエスキースのようなものが連続でつづいたりと、眠くなるようなものも少なくはないのだが、そうしたなかに通底するなにかしらアンニュイなテイストが好みなのである。好み、という徹底的にワタクシの趣味の本。リラダンふうにいえば「文学的意味? そんなものは召使いどもに任せておけ」というわけだ。

で、今回は持っていなかったところが手を出せる感じであったので、いったというわけ。

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小川未明「魯鈍な猫」(春陽堂大正元年9月15日初版凾欠印4000円

小川未明「白痴」(文影堂書店)大正2年3月13日初版凾欠印4000円

右のが「魯鈍な猫」。ともに角背上製で、「白痴」の方は天金。「白痴」にはアート紙刷の原色肖像が口絵となっており、片上伸の序文が入っている。どちらも短篇集で、それぞれ異なる画家が装幀している。もとより完本でこの辺のものはなかなかの高価なものになるので、外装欠で十分。とはいえ、「愁人」なんかは夢二装だったりしてそれでもまあ手が出ない。といって揃えようというほどでもないので、まあチャンスがあればという感じであるが、そうであってもあんまり見ないところが入手できると嬉しいものである。

そんなこんなで、今日は和洋会の初日。注文品もなく、会場をチラと覗くも特にこれといったものもない。ザーッと見て、他の支払いもあるしということで何も買わず早めに会場を後にして、今度は路上である。

今日は、神保町さくらみちフェスティバル・古本まつりの初日でもある。といって18時閉店のそのときは17時55分。盛林堂が出ているというので向かって、ご店主と話しながら棚を見る。午前中はあれこれあったというが、後の祭り。ということで、文庫と新書を。

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江戸川乱歩推理文庫「子不語随筆」(講談社)カバ300円

江戸川乱歩推理文庫「奇譚/獏の言葉」(講談社)カバ500円

水沼辰夫「文選・植字の技術」(印刷学会出版部)昭和47年3月15日6刷カバ200円

江戸川乱歩推理文庫は、末尾の方の巻のみポツポツ買っているが、高かった「奇譚」はもしかしたら持っていたかも…。

で、その後喫茶店に落ち着き、出がけにポストに届いていたのでそのまま持って来た本を取り出す。

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エフライム・ミカエル(白鳥友彦訳)「占星術師ハリアルテス」(森開社)定価

森開社の新刊である。限定300部のうち200部頒布。フランス装たとう収め。記番。珍しくアート紙刷の口絵貼付。これは頼んで訳者署名本をわけてもらった。スタイリズムも相変わらず、森開社らしい瀟洒な装幀というか造本。表紙の箔押しも効いている。直接注文のみ。こちらを参照のこと。

花粉と開花

東京では最高25度近くまでいき、桜の開花が確認された今日。久々の趣味展である。9時40分過ぎに古書会館に到着し、一服してからやおら列に並ぶと踊り場あたり。その後も人は増え、会場間際には外にまで行列。いつもの光景である。ただし今日はいつもより気持ち人が多かったような気もする。10時開場。いつものように会場奥の扶桑書房の棚に向かう。既に最前列に入ることは叶わずうしろやら脇からなんとか手を伸ばして棚から本を引き抜く。

今日は前回に引き続き第一書房の背革本やら詩集などがあったが、学生時代は垂涎の的であったこれらも今はあとまわしになる。『続断片』凾付があったので手に取って見ると、背コーネル革装の上にカバーがついて凾に入っている。カバーの存在は知らなかった。800円。既に裸本を持っているので棚に戻す。今日目立ったのは、明治本で背中に紙を貼って補修してある本。たいてい口絵欠で、400〜800円。松岡蔵書という印。誰かコレクターが手放した品だろう。棚の下、雑誌の中に明治の並装本が紛れ込んでおり、幾つか抜く。背の補修された紅葉や桜痴、浪六あたりの本。また、第一書房本は手を出さなかったが、昭和初期の白水社の、似たようなモダンな丸背上製本、『恐るべき子供たち』『ドルヂェル伯の舞踏会』『世界選手』のうち持っていなかったモーランの『世界選手』だけは確保。今更だけれでも、本体表紙のアルミ箔が比較的綺麗に残っていたので。他2冊は東郷青児装幀で表紙と同様のカバー装だったと思う。こちらは阿部金剛装。あとは『恋愛株式会社』の綺麗な凾付を千円以下で欲しいものだ。

で、だいたい30分くらいで扶桑の棚は見終えてしまい、他の書店の棚を見て行く。月の輪の棚の雑誌の山、また新しい中身になっていたような印象なので細かく見て行く。雑誌に紛れて、博文館の「明治文庫・短篇小説」が1冊紛れ込んでいる。しかも口絵付で千円。桜痴や花袋の入っている第10編。1時間少し経過、会場も全部見て回って、再度扶桑棚を見てから、帳場に確保品を預けて、友人らと食事に出る。丸香うどんで食べ、ラドリオで一服し、田村書店を覗く。外ワゴンに講談社学術文庫ちくま学芸文庫がドッサリと積んであったので、そこからシャステル「ルネサンス精神の深層」と池上俊一「身体の中世」を各400円で購入。

古書会館に戻り、確保品を徹底吟味、サクサクと棚に戻す。戻しつつもリバース品をまたチェックして確保したり。今日は「新青年」なんかもドッサリ出ていたが、けっこう売れたのであろう。昼過ぎに戻ってくると、棚はかなりスカスカになっていた。寝不足でもあり、早めにとそそくさと会計。どうも今日は花粉がかなり濃く舞っているのか、いつもなら薬で抑えられているのだが、くしゃみ洟水が酷くつらかった。

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春のやおぼろ「当世書生気質」(晩青堂書店)明治20年6月4頁落丁400円

伊良子清白「孔雀船」(左久良書房)明治39年5月5日初版カバ欠奥付欠1000円

「孔雀船」は嬉しい。見返しのノド部分に同系色の紙で補修があり奥付欠だがそれでもこれは安いだろう。口絵一葉。国会図書館のデジコレで奥付を確認しようとしたら、国会蔵書は口絵欠本であった。

逍遙のは、前に19年発行のクロス装本を買って持っていたが、今回のはボール表紙本。発兌元は同じだが発行人が異なっていた。本文も罫がなくなり新組している。落丁箇所には前の持ち主が該当本文を手書きで書いた紙が挟み込まれていた。むろん「当世書生気質」初版は17冊に分冊されたもの、それらを上下2冊に編み直したもの、今回のように別製本としてクロス装と19年発行のボール紙本、今回のもの、大和綴じのもの、ほか重版異装がごちゃごちゃとある。面白いのは今みたいに単行本があって新装版があって文庫本が…という時系列による諸版の変化があるのではなく、ほぼ数年の間にもしくは同時期に諸版がごちゃまぜで同時に受容されていたことで、かなり調査はされているとはいえ、まだまだ掘ればあれこれと面白くこの辺の本を見ることが出来るのでは無いか、ということである。

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「明治文庫」第10編(博文館)明治27年5月11日少汚1000円

「日本大家論集」第11編(博文館)明治21年4月5日少汚200円

これは月の輪さんの棚で買ったもの。「明治文庫」は先に記したとおり。口絵の多色刷木版画は永洗。この2冊とも、雑誌形式の単行本というか、中間的な発行流通形態の書物。吉岡書店の新著百種ほか、こうした明治期の雑誌的単行本についてはもっと調べないとなあと。「日本大家論集」はまあ、ある種のパクリ出版というか、そういうもののはしりだと思われるが、著作権と、再録刊行と、雑誌形式の単行本と、書誌学的にもこの辺は持っておきたかった資料。

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尾崎紅葉「浮木丸」(春陽堂明治29年9月15日背補修口絵欠800円

尾崎紅葉「黄櫨匂」(春陽堂明治31年1月1日背補修口絵欠800円

柳川春葉「後の世(後編)」(春陽堂明治40年5月10日800円

「浮木丸」「黄櫨匂」共に上記松岡蔵書。口絵欠で背補修だが、この値段であれば持っていたいというものである。「浮木丸」は風葉「世話女房」を併録、「黄櫨匂」は春葉、鏡花、中村雪後の作品も併録している作品集。「後の世」は表紙にカバーの著者名の部分が貼付してあるが、他は程度も良く。多色刷木版口絵は梶田半古。

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吉江孤雁「緑の国」(植竹書院)大正4年6月23日初版凾欠300円

馬場孤蝶「野客漫言」(書物展望社昭和8年9月23日凾欠800円

小村雪岱日本橋檜物町」(高見沢木版社)昭和18年5月20日重版凾欠1500円

吉江孤雁の本はついでのようなものだが、植竹書院のものだったので。堅牢な作りの袖珍本。馬場孤蝶のは前々から欲しかったもので、凾欠で千円くらいでないかしらと思っていたのでまさにドンピシャ。会場には同じ凾欠がもう1冊あった。雪岱のは奥付には「重版」としか記載がないが再版。三版は「三版」と記載があり元より口絵がない。前にも再版凾欠を買ったが、それは口絵欠だったので、ようやく口絵付を入手。

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ポオル・モオラン(飯島正訳)「世界選手」(白水社昭和5年11月30日凾800円

明治文学講座「明治作家研究」(木星社書院)昭和7年12月20日カバ200円

「世界選手」は先に記したとおり。阿部金剛による表紙下半分と扉対向頁のアルミ箔が強烈な印象でモダンな佇まい。

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山宮允「書物と著者」(吾妻書房)昭和24年6月5日初版凾300円

「紳士読本」昭和37年12月号、200円

倉科信一「法網をくぐる人々」(久保書店)昭和39年月10日カバ300円

山宮の本は、この時代にしては凾にビアズレーをあしらい本体もなかなか瀟洒な作りの冴える本。「西国立志編」の贋版の話など。

ところで、バタバタしていて忘れていたが、先週末は五反田の古書展に赴いて来た。目録注文品があったからだが、それも記録として書いておく。

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「雨宮庸蔵宛谷崎潤一郎書簡」(芦屋市立谷崎潤一郎記念館)1500円

奇譚クラブ」昭和33年6月号300円

日本文学報国会編「辻小説集」(八紘社杉山書店昭和18年8月18日1500円

雨宮宛谷崎書簡が目録注文品。新しい谷崎全集は、前にはあった書簡の巻がない。これは芦屋の谷崎記念館発行のもので、論文資料用。

それから「辻小説集」は太宰、安吾、谷崎、足穂ほか200名近くの作家の戦時愛国小説集とでもいうべきか。これはワタクシ初のメルカリ購入古書。背にちょっと痛みがあるほかはなかなかのコンディション。

千里眼で熱帯樹

3月1日、西部古書展へ赴く。予定であった。が、バタバタしているうちにギリギリになり、会場へ電話。閉場の18時に5分くらい遅れるが、注文品が当たっているのを確実に取りに行いたいのだが…と問い合わせると、18時10分には誰もいなくなりますから、ということでOK。10分で誰もいなくなるってのはまあないだろうけれども、それでも駅からダッシュして18時3分頃に到着。ちょうどの金額を払い、注文品を無事受け取る。

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高橋宮二「千里眼問題の真相」(人文書院昭和8年5月5日初版凾2500円

一緒に注文した福来友吉の「増補心霊の現象」(弘学館)凾欠2000円はハズレ。まあノリで注文したようなものだが、この辺は取り敢えず当時のものを少しは持っておきたかった。明治末の千里眼事件を肯定的にまとめてある本、とでもいおうか。口絵には著者への福来友吉書簡の一部が掲載。

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なぜか、昭和30年代?の福来友吉記念館の案内リーフレットが挟まっていた。

そして翌日。

世田谷パブリックシアターのシアタートラムへ、三島由紀夫の「熱帯樹」を見に行く。出演俳優が大人気でチケットがなかなか取れない由。パンフレットに執筆した特権で招待。よい席でじっくり見ることができた。「熱帯樹」自体は、最初に見たのは和敬塾でのク・ナウカの再演、その後、最近ではスズナリでの三条会のものか。久々である。装置は一寸抽象的で、むしろ初演を思わせる。黒い壁に汚れがと思ったのは、海面が月に照らされているところか。見て直ぐメモを取れば良かったのだが、覚書として。若い二人は熱演、脇はベテランが押さえるという感じ。基本的には戯曲そのままだが、ラスト、小鳥が生き返り庭に逃がしてやってから、郁子らの道行となる。地の根を張る熱帯樹の二人と月光に導かれ昇天する二人と、これも対になっているのだろうなあ。マチネであったが、終演後外に出ると既にソワレ当日券の長い列、それもすべて女性であった。そういえば客席も8割は女性だったと思う。3月2日マチネ。

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三島由紀夫作「熱帯樹」小川絵梨子演出@シアタートラム

で、その後は原稿の直しだったりなんだりであっと言う間。古書展もまた行けず。地元の古本屋で何冊か。

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黒川正剛「魔女・怪物・天変地異」(筑摩叢書)カバ帯600円

柄谷行人「日本精神分析」(文藝春秋)カバ帯400円

保昌正夫「川端と横光」(こつう豆本)300円

黒川という人のは、先日似たようなメチエの本を買ったのだったが。日本精神分析はすでに文庫化していた。失敗。 

トークに寄稿、オペラと古書

いろいろと滞っていた仕事があったり、あちらこちらとしているうちに須臾と月日が経ってしまいもう三月。前にこちらで告知したトークも無事終わり、オペラも観劇しに行き、合間に古書を買ったりしていた。

で、いろいろと書くことがあるのだが、まずは仕事関係。

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まずはジュンク堂渋谷店でのトーク。ご来場していただいた方には改めて感謝申し上げます。拙い話ではございましたが、何かしら参考になれば幸甚です。

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東京二期会「オペラ金閣寺宮本亜門新演出は、初日にうかがいました。ドイツ初演、日本初演アメリカ初演、ザ・カレッジ・オペラハウスでの上演、神奈川県立ホールでの上演、二期会宮本亜門新演出といままで6つの演出バージョンがあるわけですが、わたしはかろうじてNHKのBSでザ・カレッジオペラハウスのをテレビで見たのみ。仮にあれがスタンダードとすると、今回のものは台本も一部テキストレジーしながら、ヤング溝口を登場させるなど意欲的な解釈で、あの観念的な金閣の美をこんなふうに舞台上に出現させるのかという圧倒的な舞台をみせてくれました。

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で、仕事の宣伝のようになってしまいますが……

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二期会「オペラ金閣寺」プログラム

こちらの「オペラ金閣寺」プログラムに寄稿しています。

実は「オペラ金閣寺」上演中の東京文化会館で先行発売していましたが、三島由紀夫昭和32年黛敏郎電子音楽楽譜を伴って発表した「理髪師の衒学的欲望とフットボールの食欲との相関関係」という詩+電子音楽のコラボレーションがあり、初演は一昨年でしたが、今回ようやくCDとなって一般発売されます。

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ライナーノーツに三島と黛について解説を寄稿しております。限定250部なので、ご興味ある方は是非ご予約を。購入は、発売元のスリーシェルズさんの特設販売サイトまで。再版はまずないと思います。

そしてさらにまた、現在シアタートラムにて小川絵梨子演出で上演中の舞台「熱帯樹」。

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「熱帯樹」プログラム

舞台はこれから観に行く予定ですが、こちらのプログラムにも寄稿しております。

ご笑覧いただければ幸甚です。

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ということで、仕事の話は以上。

以下はここのところ買った古書の話。といっても、最近はあれやこれやでなかなか古書展会場にも行けず、先週だったか、たまたま吉祥寺に出る用事があり、ここまで来たのならと西荻荻窪とまわって古書店を見て回ったり、ネット古書店やら扶桑目録やらで買ったもの。

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安藤宏「日本近代小説史」(中公選書)カバ帯800円

田澤拓也太宰治の作り方」(角川選書)カバ帯400円

今野真二「リメイクの日本文学史」(平凡社新書)カバ帯300円

瀬崎圭二「海辺の恋と日本人」(青弓社ライブラリ)カバ500円

三島由紀夫「美しい星」(新潮文庫)改版カバ帯250円

吉祥寺の百年、西荻音羽館荻窪ささま書店をまわっての購入本。おべんきょ用のものばかり。新潮文庫のは改版初版だったので。うっかり買い逃すと帯付はなかなか見かけなくなる。

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これもそのうち安くと思っていたのだが、ようやく。

安部公房の劇場」(安部公房スタジオ)昭和54年6月25日400円

安部公房スタジオの上演年譜と舞台写真、批評などを載せた資料本。

それから、ネットでの買い物。

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改造社現代日本文学全集」予約募集内容見本

改造社現代日本文学全集」第2回予約募集内容見本、揃2000円

やっぱり円本の最初のものだし、これは前から欲しかった。案外古書展の場などでは見かけなかったけれども、ネット古書店だとササッと検索できてしまう。

そして扶桑書房の扶桑書房目録速報。残念ながらあれやらこれやら、注文電話したときには既に売り切れだったが、それでもこれはというものは購入できた。

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「叙情」第1輯、昭和21年6月10日発行、4500円

三島由紀夫が寄稿している終戦直後の稀覯雑誌。「しりうす」や「舞踏」に比べればまだある方なのか。16頁の小冊子だが、「三島由紀夫詩集」刊行広告が出ていたりなかなか興味深い。

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坪内逍遙小説神髄」(東京稗史出版社)上下揃題箋奥付欠4000円

まあこの辺は持っておきたかった。復刻版は持っているのだが、元版は9冊の分冊で刊行されたもの。これは上下巻に分けて和綴本で刊行されたバージョン。国会図書館の近代デジタルコレクションで確認すると、これは明治20年発行の再版ということになるらしいのだが、国会蔵書ともちょっと異なっている。写真のように見返しが元版初版の表紙をそのまま流用しているのである。上巻には「第一冊」、下巻には「第二冊」の表紙。あるいは元版初版を用いた手製本かと思われたが、いや、どうなのだろう。上下本の表紙はこの柿色の表紙でよいようだし、また違うバージョンの奥付欠本なのか。