漁書日誌 3.0

はてなダイアリー廃止(201901)を受けてはてなブログに移設しました。

花粉と開花

東京では最高25度近くまでいき、桜の開花が確認された今日。久々の趣味展である。9時40分過ぎに古書会館に到着し、一服してからやおら列に並ぶと踊り場あたり。その後も人は増え、会場間際には外にまで行列。いつもの光景である。ただし今日はいつもより気持ち人が多かったような気もする。10時開場。いつものように会場奥の扶桑書房の棚に向かう。既に最前列に入ることは叶わずうしろやら脇からなんとか手を伸ばして棚から本を引き抜く。

今日は前回に引き続き第一書房の背革本やら詩集などがあったが、学生時代は垂涎の的であったこれらも今はあとまわしになる。『続断片』凾付があったので手に取って見ると、背コーネル革装の上にカバーがついて凾に入っている。カバーの存在は知らなかった。800円。既に裸本を持っているので棚に戻す。今日目立ったのは、明治本で背中に紙を貼って補修してある本。たいてい口絵欠で、400〜800円。松岡蔵書という印。誰かコレクターが手放した品だろう。棚の下、雑誌の中に明治の並装本が紛れ込んでおり、幾つか抜く。背の補修された紅葉や桜痴、浪六あたりの本。また、第一書房本は手を出さなかったが、昭和初期の白水社の、似たようなモダンな丸背上製本、『恐るべき子供たち』『ドルヂェル伯の舞踏会』『世界選手』のうち持っていなかったモーランの『世界選手』だけは確保。今更だけれでも、本体表紙のアルミ箔が比較的綺麗に残っていたので。他2冊は東郷青児装幀で表紙と同様のカバー装だったと思う。こちらは阿部金剛装。あとは『恋愛株式会社』の綺麗な凾付を千円以下で欲しいものだ。

で、だいたい30分くらいで扶桑の棚は見終えてしまい、他の書店の棚を見て行く。月の輪の棚の雑誌の山、また新しい中身になっていたような印象なので細かく見て行く。雑誌に紛れて、博文館の「明治文庫・短篇小説」が1冊紛れ込んでいる。しかも口絵付で千円。桜痴や花袋の入っている第10編。1時間少し経過、会場も全部見て回って、再度扶桑棚を見てから、帳場に確保品を預けて、友人らと食事に出る。丸香うどんで食べ、ラドリオで一服し、田村書店を覗く。外ワゴンに講談社学術文庫ちくま学芸文庫がドッサリと積んであったので、そこからシャステル「ルネサンス精神の深層」と池上俊一「身体の中世」を各400円で購入。

古書会館に戻り、確保品を徹底吟味、サクサクと棚に戻す。戻しつつもリバース品をまたチェックして確保したり。今日は「新青年」なんかもドッサリ出ていたが、けっこう売れたのであろう。昼過ぎに戻ってくると、棚はかなりスカスカになっていた。寝不足でもあり、早めにとそそくさと会計。どうも今日は花粉がかなり濃く舞っているのか、いつもなら薬で抑えられているのだが、くしゃみ洟水が酷くつらかった。

f:id:taqueshix:20190322183358j:plain

春のやおぼろ「当世書生気質」(晩青堂書店)明治20年6月4頁落丁400円

伊良子清白「孔雀船」(左久良書房)明治39年5月5日初版カバ欠奥付欠1000円

「孔雀船」は嬉しい。見返しのノド部分に同系色の紙で補修があり奥付欠だがそれでもこれは安いだろう。口絵一葉。国会図書館のデジコレで奥付を確認しようとしたら、国会蔵書は口絵欠本であった。

逍遙のは、前に19年発行のクロス装本を買って持っていたが、今回のはボール表紙本。発兌元は同じだが発行人が異なっていた。本文も罫がなくなり新組している。落丁箇所には前の持ち主が該当本文を手書きで書いた紙が挟み込まれていた。むろん「当世書生気質」初版は17冊に分冊されたもの、それらを上下2冊に編み直したもの、今回のように別製本としてクロス装と19年発行のボール紙本、今回のもの、大和綴じのもの、ほか重版異装がごちゃごちゃとある。面白いのは今みたいに単行本があって新装版があって文庫本が…という時系列による諸版の変化があるのではなく、ほぼ数年の間にもしくは同時期に諸版がごちゃまぜで同時に受容されていたことで、かなり調査はされているとはいえ、まだまだ掘ればあれこれと面白くこの辺の本を見ることが出来るのでは無いか、ということである。

f:id:taqueshix:20190322183428j:plain

「明治文庫」第10編(博文館)明治27年5月11日少汚1000円

「日本大家論集」第11編(博文館)明治21年4月5日少汚200円

これは月の輪さんの棚で買ったもの。「明治文庫」は先に記したとおり。口絵の多色刷木版画は永洗。この2冊とも、雑誌形式の単行本というか、中間的な発行流通形態の書物。吉岡書店の新著百種ほか、こうした明治期の雑誌的単行本についてはもっと調べないとなあと。「日本大家論集」はまあ、ある種のパクリ出版というか、そういうもののはしりだと思われるが、著作権と、再録刊行と、雑誌形式の単行本と、書誌学的にもこの辺は持っておきたかった資料。

f:id:taqueshix:20190322183513j:plain

尾崎紅葉「浮木丸」(春陽堂明治29年9月15日背補修口絵欠800円

尾崎紅葉「黄櫨匂」(春陽堂明治31年1月1日背補修口絵欠800円

柳川春葉「後の世(後編)」(春陽堂明治40年5月10日800円

「浮木丸」「黄櫨匂」共に上記松岡蔵書。口絵欠で背補修だが、この値段であれば持っていたいというものである。「浮木丸」は風葉「世話女房」を併録、「黄櫨匂」は春葉、鏡花、中村雪後の作品も併録している作品集。「後の世」は表紙にカバーの著者名の部分が貼付してあるが、他は程度も良く。多色刷木版口絵は梶田半古。

f:id:taqueshix:20190322183712j:plain

吉江孤雁「緑の国」(植竹書院)大正4年6月23日初版凾欠300円

馬場孤蝶「野客漫言」(書物展望社昭和8年9月23日凾欠800円

小村雪岱日本橋檜物町」(高見沢木版社)昭和18年5月20日重版凾欠1500円

吉江孤雁の本はついでのようなものだが、植竹書院のものだったので。堅牢な作りの袖珍本。馬場孤蝶のは前々から欲しかったもので、凾欠で千円くらいでないかしらと思っていたのでまさにドンピシャ。会場には同じ凾欠がもう1冊あった。雪岱のは奥付には「重版」としか記載がないが再版。三版は「三版」と記載があり元より口絵がない。前にも再版凾欠を買ったが、それは口絵欠だったので、ようやく口絵付を入手。

f:id:taqueshix:20190322183810j:plain

ポオル・モオラン(飯島正訳)「世界選手」(白水社昭和5年11月30日凾800円

明治文学講座「明治作家研究」(木星社書院)昭和7年12月20日カバ200円

「世界選手」は先に記したとおり。阿部金剛による表紙下半分と扉対向頁のアルミ箔が強烈な印象でモダンな佇まい。

f:id:taqueshix:20190322183854j:plain

山宮允「書物と著者」(吾妻書房)昭和24年6月5日初版凾300円

「紳士読本」昭和37年12月号、200円

倉科信一「法網をくぐる人々」(久保書店)昭和39年月10日カバ300円

山宮の本は、この時代にしては凾にビアズレーをあしらい本体もなかなか瀟洒な作りの冴える本。「西国立志編」の贋版の話など。

ところで、バタバタしていて忘れていたが、先週末は五反田の古書展に赴いて来た。目録注文品があったからだが、それも記録として書いておく。

f:id:taqueshix:20190323011955j:plain

「雨宮庸蔵宛谷崎潤一郎書簡」(芦屋市立谷崎潤一郎記念館)1500円

奇譚クラブ」昭和33年6月号300円

日本文学報国会編「辻小説集」(八紘社杉山書店昭和18年8月18日1500円

雨宮宛谷崎書簡が目録注文品。新しい谷崎全集は、前にはあった書簡の巻がない。これは芦屋の谷崎記念館発行のもので、論文資料用。

それから「辻小説集」は太宰、安吾、谷崎、足穂ほか200名近くの作家の戦時愛国小説集とでもいうべきか。これはワタクシ初のメルカリ購入古書。背にちょっと痛みがあるほかはなかなかのコンディション。