漁書日誌 3.0

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宴のあと

さて、神田古本まつりも最終日である。

本日は扶桑書房に立ち寄ってから、最終日の靖国通り沿いの古書屋台をダラダラとみてまわった。

まずは申し込んでいた本の引き取りから。

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川島幸希編「近代文学署名本三十選」(日本古書通信社)令和元年11月3日

限定50部。表紙の色に黒、赤のグラデーション、青のグラデーションと3色あったが、青をセレクト。これで、川島さんの本は一部の特装や異装を除いて全部所持ということか。しかし懐を痛打。

盛林堂のワゴンで1冊買ったほかは、最終日ということでどこも多少割引価格で売っていたが、金欠であるのと重い本を持って帰りたくないというのとで、結局買わず。扶桑事務所で「三十選」とは別に尾崎一雄を1冊買ったのと合わせて本日の古書は2冊ということになる。

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尾崎一雄「天狗の羽風」(宝文館)昭和32年1月20日初版カバ100円

松本清張「突風」(海燕社)昭和41年12月15日初版カバ200円

写真のように、著者が表紙装幀に使われている本を買っている。作者肖像写真、イメージと装幀というわたくしの研究課題の題材でもあるからだ。とりわけ宝文館のこのシリーズ(シリーズ名はないようだが、同一装幀で何冊か出ている)は注目していて、この尾崎の本は題字も自筆。吉田健一の「三文文士」は三島由紀夫が題字を揮毫している。シリーズの中には、題字が自筆筆跡を使ったものと仲間が書いたものと2通りあるようだ。

大雨の特選、そして新潟、愛書会

雨である。1025日金曜日、本日は神田古本まつり初日でもあり、特選展の初日でもある。いつもの趣味展と同じくらいに到着すればよいだろうと向かったのだが、雨による渋滞でバスが遅れ、電車もなぜか途中駅で点検であったそうで遅れている…そんなこんなで、古書会館へ到着したのは10時2分頃か。

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そしてワタクシは土日と開催される学会の仕事で11時40分の新幹線に乗らなければならなかった。期待していたワゴンはおそらく今日は出ない。古書会館の特選のみである。しかも許された時間は約1時間。幾つか抱えるが、荷物になるのでこれというものだけにして、それでもという時は宅配便で送るつもりであった。そう考えてみると、手間を考えればいまわざわざ買うというものもなく、結局購入したのは2冊のみ。購入。明日舞台で一緒になる二人とあきつの棚で遭遇。

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志賀直哉「映山紅」(全国書房)昭和21年12月25日裸500円

谷崎潤一郎「鍵」(中央公論社)昭和33年12月10日縮刷普及版カバ帯初300円

「映山紅」には夫婦凾入りのとカバー装のとがあるようである。全国書房が昭和21年から22年いかけて作成した耳付き和紙の贅沢な造本。また「鍵」は、帯には「縮刷普及版」とあり、奥付には「普及版」とあるのだが、背表紙には「中央公論文庫」とある。新書判だが当初は「文庫」と銘打たれていたシリーズ。これの帯がなかなかないのである。

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これだけ買ってそそくさと会計し、東京駅へ。一路、新潟に向かうのであった。学会は、「書物(オブジェ)としての近代文学」と題した特集で司会者として最後の登壇者ディスカッションに参加、いろいろあって特集関連展示としてわたしの貧しいコレクションから新潟出身作家の小川未明吉屋信子の本を展示させていただくということになった。

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そして帰宅後、ヤフオク落札品が届いていた。

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竹内瑞穂「「変態」という文化」(ひつじ書房)5600円+税の半額

田中馨「書籍と紙」(書肆緑人館)960円

宮川淳「引用の織物」(筑摩書房)凾1500円

「変態」は、学会先に出ていたひつじ書房の割引セールで買った本で定価の半額であった。

さて、それから神保町ワゴンをまわれたのはようやく水曜日になってからである。仕事の後駆けつけると、すでに18時50分。閉場まであと10分。それでも見たかった盛林堂のワゴンを見て、2冊購入。

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萩原朔太郎「純正詩論」(第一書房昭和10年4月7日初版カバ2000円

清水澄子「さゝやき」(甲陽文庫)昭和32年3月15日初カバ500円

朔太郎のこの本はカバー付が欲しかった。表紙に著者の写真を用いている装幀。著者イメージと装幀画有機的に結びついているもので、自身の研究課題用でもある。それから清水澄子のは、御存知、大正時代に自殺した女学生の残した文章や絵を収めた宝文館版が知られているが、あの瀟洒な本がかなり売れ(うちには100版超えの版がある)、それの戦後文庫版が出ているとは知らなかった。しかしこの解説によると宝文館版は文章が勝手に改竄されているそうで、元版の信濃毎日新聞版を底本としている由。

で、今日は愛書会。愛書会を覗き、ついでにワゴンもと神保町に出た。

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島崎藤村「藤村詩集」(春陽堂大正7年2月20日53版凾300円

姫野カオルコ「彼女は頭が悪いから」(文藝春秋)カバ300円

御園座筋書「名古屋市芸術祭参加十月大歌舞伎中村吉右衛門劇団」昭33・10、540円

姫野カオルコは今更だが、ちょっと前に話題になったやつ。それより何より御園座の筋書が嬉しい。三島由紀夫の「鰯売恋曳網」公演のものである。

で、今度は外。ザーッと流して見て行く。そして買ったのが以下。

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室生犀星「蜜のあはれ」(新潮社)昭和34年10月5日初版凾500円

森茉莉訳「マドゥモァゼル・ルウルウ」(薔薇十字社)昭和48年5月15日再版凾帯300円

いやまあ、初日に買えなかったことの反動か、細かく見ればけっこうな量を買ってしまっている。この金欠時になかなか。まあ致し方ないと自ら言い聞かせるのみ。

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詩集・五反田、恵比寿

五反田散歩展に赴く。注文品はなかったが、閉場まであと1時間というところで、まずは1階のガレージを見て行く。雑本の山の中から、「淵上毛銭詩集」を発見、これは嬉しい。その後、2階の会場を見ていく。澤口書店の棚がかなり黒っぽく、これは午前中はけっこう面白かったのではないかと思われた。今月は色々と出費多く、あれこれと思い止めて、結局購入したのは以下。

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岡落葉「独歩の身辺」(こつう豆本)200円

柏木博「家事の政治学」(岩波現代文庫)カバ帯200円

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淵上毛銭「淵上毛銭詩集」(青黴詩社)昭和22年7月15日限定300部300円

300円というのはいくら何でも安い。ちょっとした掘り出し物か。淵上毛銭は、刊行当時この詩集を三島由紀夫に献呈しており、三島からの礼状が淵上の個人雑誌の別冊に出ているのを見つけ、これは三島逸文だとコピーしたことがあった。それで覚えていたのだが、300円ならついでに買える値段である。写真のように背中もコンディション悪くなく、本文は粗末だが木版の装幀は本体にマッチしていてよい装幀。

五反田の閉場後は、踵を返して一路、恵比寿へ向かう。

恵比寿のLIBRAIRIE 6へ向かい、開催中のMax Walter Svanberg + Rosemary Svanberg 展を鑑賞。

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スワーンベリはもっぱら澁澤の本で知って、骰子の7の目画集を買って触れてきたくらいだったので、実物を見るのは初めて。スワーンベリの娘の作品と共に展示。エッチングタペストリーなどもあった。そして、今回日本初紹介だというスワーンベリの詩集『Åren』を購入。本文2色刷で瀟洒でスタイリッシュな装幀。

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初版500部とのことだが、売り切れて要望が多ければ重版することもある由。詩画集とでもいうべき感じで各頁にカットが入り、見た瞬間これはマストだと購入してしまった。

台風直前の古書展

城南古書展初日。

台風19号の直撃を控えて、2日目の土曜日は無しになる。

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今までこういう事態はあったこともあるのであろうが、ワタクシ個人が経験したのは初めて。そういえば震災の時は、1週間後の五反田と愛書会と行って、たしか愛書会の会場で棚にズラッと災害時用リュックを並べて売っていたなあなどと思い出し。

注文品が当たったことを確認してから夕方会場に向かう。

1時間ちょっと、会場をザーッと回って幾つか手にするも、注文品もあり金欠時でもあり、あれやこれやとまた棚に戻して、結局買ったのは以下。

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文部省音楽取調掛編纂「小学 唱歌集 第二編」(大日本図書)明治18年5月再版200円

木村荘八「随筆 女性三代」(河出新書)昭和31年3月15日初版カバ324円

「東をどり」パンフ(昭和32年11月)400円

「東をどり」のは、谷崎潤一郎の「舞踊劇 母を恋ふる記」上演時ので、台本も収録されている。それから、注文品である。

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森田草平「縮刷合本 煤煙」(植竹書院)大正3年4月28日3版カバ2500円

これがいま欲しかった。というのも「日本古書通信」に発表した植竹書院に関する旧稿にいま現在あれこれと手を入れてるのだが、外装付本書の入手でようやくハッキリした事柄がある。本体表紙の装幀とカバーの装幀とはそれぞれ別人が担当。本体は天青染め。この羊みたいな意匠はその後、植竹の書物のあれこれで使い回される。詳しくは今度出す新著で大幅増補して書くので皆さん買って下さい。

閉場後、古書展を後にして、今度は一路原宿に向かい、芥正彦作、演出、振付のホモ・フィクタス公演を見に行く(こちらも千秋楽は明日の予定であったが台風のために本日最終日となった)。

女、資生堂、編集者

昨日は家を出るのが遅くなり行こうと思っていた五反田遊古会に行けなかったので、今日は五反田であった。どのみち注文品が当たっていたので取りに行きたかったのである。ただし今日は17時閉場。本当は神保町に立ち寄ってからとも思っていたが、無理そうであったので直接向かう。16時半頃着。ザーッと見て行くが、1冊も買うものはなく。いや、本当は黒っぽい棚などあったのだが、なるべく金は使わない、雑本を置く場所もないというのもあって、これというのがなければ買わない方向でいた。で、ギリギリまで見て、結局なにもなく、注文品を出してもらい、お会計。

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小野賢一郎「女、女、女」(興成舘書店)大正4年6月25日再版裸5000円

これも雑本といえば雑本かもしれない。またすごいタイトルだが、武智鉄二の映画にもこんなのがあった(「日本の夜 女・女・女物語」)。東京日日新聞の記者である小野は、現代文芸叢書で小説「溝」を出している人。後の俳人・小野撫子である。新興俳句弾圧事件の黒幕としての悪名でも知られていようが、明治の終わりから大正の初めころは上記の小説なども書き、谷崎潤一郎とも交流があった。「新聞記者の手帖1」というのに確か谷崎が序文を書いている。蘭郁二郎の母親の再婚相手であり、義理の父親でもある。

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口絵の2枚。単色のスケッチのようなものは、鏡台前の女優だろうか。「介」とサインがあるが誰だろう。おそらく外装は凾だと思われる。

小野の「明治大正昭和」といった本ならばそこらにあるのだが、初期の本はあんまり見ない。本書も、萬龍やらなにやら、おそらく新聞に連載した芸者、女優関連の探訪記事のようなものをまとめたもの。ちょっと高いけれども確かに見ないしということでいってしまった。

17時に閉場、その足で急いで五反田駅へ向かい、都営浅草線に乗って今度は一路日本橋へ。日本橋高島屋で開催中の「美と、美と、美。資生堂のスタイル展」に赴く。

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資生堂については「資生堂宣伝史」を買ったりして興味があり、とりわけセルジュ・ルタンスのコーナーや歴代の香水瓶を展示したコーナーなどは興味深かった。一部を除いて撮影可の表示があり皆パシャパシャ撮影していた。2千円くらいの図録もあったが、まあ今回はやめて、その代わりにグッズコーナーでハンカチを買った。

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ハンカチといっても大判で、黒と赤の2色あり。上記の写真にあるように、大正期に使われていた資生堂の包装紙のデザインである。このデザイン自体は、かつて19世紀末にジョン・レーンから出たビアズレー装幀のベン・ジョンソン「ヴォルポーネ」の装幀デザインの流用。矢部季による。「白秋小唄集」もこんな装幀だったと思う。

で、早々にそこを出て、今度は銀座線で田原町に向かう。

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田原町の Readin’ Writin’ BOOK STOREで19時開演のトークショーがあるためだ。「[とくに何も記念しないトークイベント]本、そのものへ! ――3人の編集者によるジャムセッション」と題して、オルタナ編集者の郡淳一郎さん、共和国主宰の下平尾直さん、岩波書店の渡部朝香さん3名のトーク。編集者、編集者、編集者、である。渡部さん司会で、郡さんと下平尾さんがお題に即して古書合戦するという流れで、「ルウベンスの戯画」から萩原恭次郎の詩集からはたまたブリキの自発団の舞台小道具として使われた巨大な本までが飛び出して盛り上がりを見せた。

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 女、女、女、美と、美と、美、編集者、編集者、編集者……3つ並べる三題噺。頓首。

 

週末の古書

うっかり遅くなってしまい、五反田に向かう筈が間に合わない。ということで、和洋会は立ち寄らないつもりでたのだが、五反田に行かずに神保町へ出た。

終わり15分くらいザーッと見て、文庫3冊に単行本1冊を購入。

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前川直哉「〈男性同性愛者〉の社会史」(作品社)カバ帯1500円

堀切実「表現としての俳諧」(岩波現代文庫)カバ帯300円

日夏耿之介「明治大正の小説家」(角川文庫)帯150円

三島由紀夫「真夏の死」(角川文庫)昭和30年8月20日初版帯150円

「〈男性同性愛者〉の社会史」は雑誌「アドニス」などを論じているもので、この人の前著は買って読んでいたが迂闊にもこの本は知らなかった。パラパラ見たら、ワタクシの旧稿に言及されていたので購入。

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盛厚三「木版彫刻師 伊上凡骨」(徳島県立文学書道館)

高橋ユキ「つけびの村」(晶文社

こちらは新本購入。「つけびの村」は「つけびして煙よろこぶ田舎者」の、例の事件のルポで、ネットで見かけて以来発売を心待ちにしていたもの。伊上凡骨の本は、「ことのは文庫」の1冊で、徳島県立文学書道館から通販で買ったもの。その生涯と仕事がコンパクトにまとまっている好著。盛厚三さんの本は、前にも「挽歌」についてのものをこれも通販で買ったなあ。いま奥付見て気がついたが、発行者は瀬戸内寂聴になっている。

(明日の分を明日付け足す)

窓の次は趣味展

いろいろま理由でゲルピンであり、趣味展目録で一点欲しいものがあったのだが自重した。そして趣味展初日である。

いつもよりはちょっと早め、9時40分くらいには会場に到着しただろうか。一服してから列び、9時50分には地下の会場前にギュウギュウとなる。10時開場。扶桑書房の棚をじっくり見て行く。そうすると、目録注文を諦めた本が結局注文がなかったのか並んでいる。手に取り逡巡する。

途中、お昼に抜けて古書仲間らでマルカうどんに行き青唐辛子醤油漬けうどんを食べてから田村書店を見て、ミロンガで一服してから再度会場へ戻る。

改めて確保の品を吟味して、また会場を見て回り、最終的に購入したのは以下。

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モーパッサン三宅松郎訳「女の髪」(カナメ叢書)大正3年8月15日3版400円

イブセン山口徹編「復活の日」(世界名著文庫)大正3年10月10日3版400円

城しづか「薔薇の小径」(宝文館)大正13年10月10日3版凾欠4000円

星加公士「麗人九条武子夫人の芸術と生涯」(太平洋書房)昭和4年10月18日初版裸1000円

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夏目漱石「木屑録」(岩波書店昭和8年3月15日帙3000円

井村君江日夏耿之介の世界」(国書刊行会)カバ帯800円

「薔薇の小径」は城夏子の本。夢二の多色口絵「著者小照」のほかに2色刷の挿絵が7枚入っている。装幀も夢二。これで結構な出費になってしまった。カナメ叢書、世界名著文庫というのはアカギ叢書のモドキ追随本。青年学芸社のエッセンスシリーズとか世界文芸叢書チョイスシリーズなんかもそう。植竹書院の文明叢書とかは個人の創作メインだけれども、梗概をコンパクトにってのはまあアンチョコ本である。これがヒットし求められたという需要は、後の円本ブームの下地なのだろうなあ。「木屑録」は復刻ではなく本物。解説、訳文の冊子もついて状態も悪くない。「俳諧師」美本カバー付再版1500円買っておけばよかったか。