雨である。10月25日金曜日、本日は神田古本まつり初日でもあり、特選展の初日でもある。いつもの趣味展と同じくらいに到着すればよいだろうと向かったのだが、雨による渋滞でバスが遅れ、電車もなぜか途中駅で点検であったそうで遅れている…そんなこんなで、古書会館へ到着したのは10時2分頃か。
そしてワタクシは土日と開催される学会の仕事で11時40分の新幹線に乗らなければならなかった。期待していたワゴンはおそらく今日は出ない。古書会館の特選のみである。しかも許された時間は約1時間。幾つか抱えるが、荷物になるのでこれというものだけにして、それでもという時は宅配便で送るつもりであった。そう考えてみると、手間を考えればいまわざわざ買うというものもなく、結局購入したのは2冊のみ。購入。明日舞台で一緒になる二人とあきつの棚で遭遇。
志賀直哉「映山紅」(全国書房)昭和21年12月25日裸500円
谷崎潤一郎「鍵」(中央公論社)昭和33年12月10日縮刷普及版カバ帯初300円
「映山紅」には夫婦凾入りのとカバー装のとがあるようである。全国書房が昭和21年から22年いかけて作成した耳付き和紙の贅沢な造本。また「鍵」は、帯には「縮刷普及版」とあり、奥付には「普及版」とあるのだが、背表紙には「中央公論文庫」とある。新書判だが当初は「文庫」と銘打たれていたシリーズ。これの帯がなかなかないのである。
これだけ買ってそそくさと会計し、東京駅へ。一路、新潟に向かうのであった。学会は、「書物(オブジェ)としての近代文学」と題した特集で司会者として最後の登壇者ディスカッションに参加、いろいろあって特集関連展示としてわたしの貧しいコレクションから新潟出身作家の小川未明と吉屋信子の本を展示させていただくということになった。
そして帰宅後、ヤフオク落札品が届いていた。
竹内瑞穂「「変態」という文化」(ひつじ書房)5600円+税の半額
田中馨「書籍と紙」(書肆緑人館)960円
「変態」は、学会先に出ていたひつじ書房の割引セールで買った本で定価の半額であった。
さて、それから神保町ワゴンをまわれたのはようやく水曜日になってからである。仕事の後駆けつけると、すでに18時50分。閉場まであと10分。それでも見たかった盛林堂のワゴンを見て、2冊購入。
萩原朔太郎「純正詩論」(第一書房)昭和10年4月7日初版カバ2000円
清水澄子「さゝやき」(甲陽文庫)昭和32年3月15日初カバ500円
朔太郎のこの本はカバー付が欲しかった。表紙に著者の写真を用いている装幀。著者イメージと装幀画有機的に結びついているもので、自身の研究課題用でもある。それから清水澄子のは、御存知、大正時代に自殺した女学生の残した文章や絵を収めた宝文館版が知られているが、あの瀟洒な本がかなり売れ(うちには100版超えの版がある)、それの戦後文庫版が出ているとは知らなかった。しかしこの解説によると宝文館版は文章が勝手に改竄されているそうで、元版の信濃毎日新聞版を底本としている由。
で、今日は愛書会。愛書会を覗き、ついでにワゴンもと神保町に出た。
島崎藤村「藤村詩集」(春陽堂)大正7年2月20日53版凾300円
御園座筋書「名古屋市芸術祭参加十月大歌舞伎中村吉右衛門劇団」昭33・10、540円
姫野カオルコは今更だが、ちょっと前に話題になったやつ。それより何より御園座の筋書が嬉しい。三島由紀夫の「鰯売恋曳網」公演のものである。
で、今度は外。ザーッと流して見て行く。そして買ったのが以下。
室生犀星「蜜のあはれ」(新潮社)昭和34年10月5日初版凾500円
森茉莉訳「マドゥモァゼル・ルウルウ」(薔薇十字社)昭和48年5月15日再版凾帯300円
いやまあ、初日に買えなかったことの反動か、細かく見ればけっこうな量を買ってしまっている。この金欠時になかなか。まあ致し方ないと自ら言い聞かせるのみ。