漁書日誌 3.0

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真夏の古書

台風接近で風雨が続いている。台風が来る直前に、目録で注文した古書が届いた。扶桑書房目録速報である。今回は、上下とか上中下とかある明治末〜大正初年の多色刷木版口絵入り家庭小説本で、揃えてから出そうと思ったが結局揃わなかったので出したという本が相場からするとかなりお安めでズラズラ出ていて、おおと思ったが、残っているかとファックスで注文。そして、いくつかは残っていた。

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後藤宙外「思ひざめ」(橋南堂)明治40年11月10日初版裸落丁6500円

渡辺霞亭「渦巻 続」(隆文館)大正3年2月25日初版裸6000円

後藤宙外の方は鰭先英朋、霞亭の方は鏑木清方の木版口絵付。宙外のは冒頭1ページ落丁だがこれ1冊で完結のもの。「渦巻」はたしか続は未所持と注文したものである。で、届いてから確認してみたら続持ってる……と思ったら、上中下続全部口絵無し1セット、ほかに口絵付で上中下を持っていたので、これでようよう口絵付上中下続と揃ったわけであった。めでたし。

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続巻の口絵。やはり「渦巻」挿絵は人物の上半身を大きくとって、どれもなかなかいい。

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結城秀雄編著「明治芸文拾遺」(醒客菴)平成5年2月17日限定100部記番凾3000円

これは正直よく知らない本であったが、ピンとくるものがあって注文したもの。私家版100部。明治初頭のボール紙本の著者で後年宮中に入って東宮主事など歴任した桑野鋭の自筆草稿を活字化したものがメイン。たぶん趣味の人だろうけれども、よく出したなあと。100部とはいえ、凝りようからして費用は中古のベンツくらいかかっていそうである。

つなわたり古書展

今年ももうこんな季節かと、つまり池袋三省堂古書まつりである。以前は、デパート展といえば、新宿伊勢丹、新宿京王、渋谷東急なんかが春夏とあって、一時期は朝イチで駆けつけたものである。もう渋谷東急もなくなってしまい、デパート展という範疇に入るかどうかわからぬが、都内では池袋リブロ(三省堂)しかなくなってしまった。

で、8月3日火曜日、採点地獄でヘトヘトになりながらも、その上、変異株で感染者数が激増しているというニュースを横目に、夕方、池袋西武へ。

じっくり見て回ったつもりだが、それでも90分くらいかかったか。これはというものこそなかったが、幾つか購入。

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「小説怪物」創刊号500円

杉浦明平「村の選挙」(柏林書房)昭和30年5月31日カバ330円

今井田勲・三枝佐枝子「編集長から読者へ」(現代ジャーナリズム出版会)昭和42年12月10日カバ欠200円

須永朝彦「東方花傳]」(湯川書房)昭和47年5月10日凾2000円

「怪物」はマンディアルグのインタビュー掲載のため。「村の選挙」は〈ルポルタージュ日本の証言〉というシリーズの.1冊。装画と挿絵は池田.龍雄。それから須永朝彦の歌集は、先日著者が亡くなったというのもあり、価格的にもまあよいかと購入。こちらは、装画は塚本青史、末尾には塚本邦雄の掌篇収録、限定150部、毛筆歌署名入りで、本文用紙の小口側の耳の部分が表紙と同じ濃鶯色で染めてある。

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また、活字がなかったのか、いくつかの漢字は凸版で作字ものを用いている。

……さて、ここのところ学校仕事でバタバタしており、幾つかここに書き漏らした古書展について記しておく。

まずは7月30日に赴いた我楽多展。

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国木田独歩「独歩集」(彩雲閣)明治41年7月5日10版300円

福田清人「十五人の作家との対話」(中央公論社)昭和30年2月15日初版カバ帯300円

十返肇「わが文壇散歩」(現代社)昭和31年5月30日初版カバ100円

室生犀星「随筆 女ひと」(新潮社)昭和30年10月8日初版カバ300円

室生犀星「随筆 続女ひと」(新潮社)昭和31年3月15日初版カバ300円

「独歩集」は近事画報社ではなく彩雲閣になってる重版。犀星の随筆は装幀買い。前からこういう装幀であることは知っており、安く出ないかと思っていたところ。

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劇団浪曼劇場プログラム「クレオパトラ」100円

劇団浪曼劇場プログラム「ヴァージニア・ウルフなんてこわくない/デリケイト・バランス」100円

これらも既に持っているが、チケット半券とチラシ、「劇団浪曼劇場ニュース」が挟んであったために購入。

お次は、7月9日に赴いた愛書会古書展。

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フライターク「劇作法」(改造文庫)上巻昭和14年9月16日初版150円

フライターク「劇作法」(改造文庫)下巻昭和14年11月20日初版帯150円

吉屋信子「ペン字の手紙」(主婦の友附録)帙痛250円

福島保夫「書肆「新生社」私史」(武蔵野書房)平成6年12月20日カバ500円

久松健一「書物奇縁」(日本古書通信社)500円

瀧井敬子漱石が聴いたベートーヴェン」(中公新書)150円

「ブックエンド通信」創刊号著者手紙付300円

フライタークは戦後に翻訳は出ていないのではなかろうか。探すともなく探していたもので嬉しい。中原淳一が表紙を飾る吉屋のは、便箋にペン字の例文が印刷されているというもので、無綴じの便箋がドサリと入っている。当時のお手本みたいなものである。「ブックエンド通信」は青山毅編集だが、全記事自分で書いており、春陽堂月報細目がメイン。資料として便利だ。

五反田復活

五反田遊古会も久しぶりである。感染者数も連日千人越え、五輪も始まるという流れで、しかし、和洋会、五反田遊古会と開催するという。久しぶりでもあり、まずは五反田を見てから神保町に出るかということで家を出る。

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とはいえ、結局南部古書会館に到着したのは17時少し前。さて、どんなものかなとまずは1階のガレージから見て行くが、これがなかなか面白い。とりわけ雑多な新書がそこかしこにあり、これがなかなか面白そう。また出版、編集関連の棚などもあり、それぞれ安いのであれこれと抱えてしまいそうになるのだが、抑えて、これはというのだけ購入。

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谷崎潤一郎文章読本」(中央公論社)50版カバ300円

寺山修司「戦後詩」(紀伊國屋新書)昭和40年11月25日初版帯200円

戸井田道三「演技」(紀伊國屋新書)昭和38年11月30日初版帯200円

現代芸術講座2「芸術の歩み」(河出新書)昭和30年11月25日初版カバ200円

現代芸術講座3「社会と芸術」(河出新書)昭和30年12月15日初版カバ200円

現代芸術講座4「現代芸術用語事典」(河出新書)昭和31年3月20日初版カバ200円

文章読本」は50版という重版だったため。あとは新書だが、現代芸術講座はすでに1を持っているのでこれで揃いかと買ったもの。1巻は「現代芸術入門」。瀧口修造岡本太郎黛敏郎ほかいろいろな人の寄稿からなっているシリーズ。で、2階に向かう。

ザーッと見て行くが、200円均一棚が一番面白かった。ちょっといま吉田健一について調べているので、あれこれ漁る。ふと気がつくと、もう17時半を過ぎていた。ああ、本当はここを早めに切り上げて神保町に出て和洋会に行こうと思っていたが、もう無理だ、ここもうちょっとじっくり見ていくかと、閉場ギリギリまで。

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吉田健一「文学あちらこちら」(東方新書)昭和31年5月1日初版カバ200円

現代知性全集35「吉田健一集」(日本書房)昭和34年10月25日初版カバ200円

長谷川郁夫「吉田健一」(新潮社)カバ帯2500円

評伝、思い切っていってしまったが、マケプレだともっと安いのを後から知った。

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夏目漱石「こころ」(岩波書店大正7年10月15日14版凾欠300円

愛書趣味別冊「明治文芸研究資料展覧会目録」200円

新生新派筋書(御園座昭和15年1月200円

「国文学解釈と鑑賞」昭和43年8月200円

御園座の筋書は新派の「春季抄」上演時のもの。愛書趣味別冊もそうだが、これ1年前に入手していたら拙著で使えたのになあとも。

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「辻留清談」刊記無し綴穴200円

これ、12倍以上で買っているのに…ということで買ってしまう。でもやっぱりこのくらいの値段が相応しいのかもしれないなあと。

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「手紙雑誌」(明治39年10月、11月)2冊500円

手紙雑誌ハ実物を1冊も持っていなかったので参考用に。ということで、注文品もないのに五反田でこんなにお金を使うのは初くらいに買ってしまった。まあ吉田健一評伝が大きいのだが。

梅雨明けの趣味展

久々の趣味展開催である。何ヶ月ぶりか。目録注文品もあったし、なによりも場を楽しみにしていた。

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しかし、である。ここ数日は都内新規コロナ患者が連日1000人超え、ギリギリ滑り込めるかアウトかという心配もあった。また、客の半数以上を占めるであろう後期高齢者がワクチン接種を済ませ一気に混雑するかという心配もあった。混雑するか逆に少なくなるか。ということで、いつもより少し早めに会場へ向かう。9時15分くらいに会場に到着。誰も居ない。整理券制で20番台前半。近くのドトールに行き古書仲間と合流。一服してから10分前に会場へ。グループ毎に入場。まずは20番まで。第1グループでなかったのはきついな…。続いて入場。しかし、どちらかといえば昨年コロナ下の状況と同じくらい。そこまでは混んでいないというところか。

で、扶桑書房の棚へ。壁のように人だかりで見られないということはない。これはというのを見て行く。扶桑さんも空いたところへガンガンと追加補充。やたら白秋のものが出ていた印象。じっくり漁ったあとに、月の輪さんの棚へ。ここもリーフレットの類や原稿などゴチャゴチャ山盛りで漁るのが面白い棚。

ある程度目処をつけて、取り置きしてもらってから、仲間と丸香うどんへ昼食に行って、喫茶店で一服。その後、ワタクシは編集者との打ち合わせに抜けて、終わった後に神保町に。田村書店を覗いてから、会場へ。

今回は一寸何を棚に戻すのか、午前中に一度吟味を重ねて戻してはいたが、合計額がすごいことになり、それでも幾つか戻す。

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樋口二葉「終懺悔」(岡本増進堂明治44年2月25日初版綴穴2000円

幸田露伴「天うつ浪」(春陽堂明治39年1月1日〜40年1月1日全3冊初版揃2500円

二葉のはそのパロディあるところから購入。作品名ではよく便乗本があるけれど、作者名では日夏由紀夫くらいしか知らなかった。逆にいえば、当時樋口一葉がすでにカノンとなっていたということか。清方の木版口絵入り。「天うつ浪」は既に1巻は持っているが、それぞれ梶田半古、鰭先英朋、鈴木華邨の木版口絵入り。いいラインナップ。

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新声社同人「青葉蔭」(新声社)明治34年8月8日再版400円

菊池暁汀「魔風恋風の詩」(盛光堂)明治39年10月28日初版500円

真山青果「夢」(新潮社)明治42年5月28日初版300円

志賀直哉「或る朝」(春陽堂)大正10年6月20日再版裸1500円

里見トン「二人の弟子」(春陽堂大正6年5月15日初版凾欠痛200円

小型本まとめて。「二人の弟子」は見返し画を山内神斧がやっておりお安く探していたのでボロいが嬉しいところ。あた「或る朝」は再版だけれども、これ発禁本だよねえ。初版が18日発行、再版が20日発行。ほとんど同時出荷じゃないかと思うけれども、発禁になってから再版ということはないだろうし。高いけれども発禁だよなあと思い切って購入…が、しかしあれって大正一桁じゃなかったかなあと調べたら、やはり発禁は大正7年の。「剃刀」かと思っていたが「濁った頭」だ。確かに削除した後版だ。学生の頃に城市郎「発禁本」で読んだわ。これに1500円は痛い出費だった…。

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阿部次郎、小宮豊隆安倍能成森田草平「影と声」(春陽堂明治44年3月16日初版裸400円

夏目漱石虞美人草」(春陽堂)大正5年1月1日縮刷初版凾2000円

夏目漱石硝子戸の中」(岩波書店大正8年11月10日22版凾300円

夏目漱石「心」(岩波書店大正6年5月18日縮刷初版凾欠1200円

漱石関係一括。「影と声」は安倍能成の分の目次が欠でコピーで補ってあった。まあそれでも安いかなと。「硝子戸の中」は前所持していた本を売ってしまったので嬉しい。

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小川未明「底の社会へ」(岡村書店)大正3年9月5日初版凾欠1500円

伊藤白蓮「几帳のかげ」(玄文社)大正10年10月1日改訂14版凾付300円

藤井真澄「妖怪時代」(創文館)大正12年5月15日再版凾付500円

なんといっても未明は嬉しい。この本は持っていなかった。凾欠とはいえ美本。白蓮は改訂版だがピンクのバックスキン装で本体はピンピン。「妖怪時代」もボロいのを持っていた筈だが美本なので行ってしまう。大森眠歩「幻想時代」と同じ版元で装幀もほぼ一緒である。

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帰山教正「映画の性的魅惑」(文久社)昭和3年4月25日初版カバ欠400円

石川淳「普賢」(版画荘)昭和12年3月20日初版凾欠汚れ200円

尾崎士郎石田三成」(中央公論社昭和13年12月1日初版凾500円

帰山の単著は2冊でこれで全部入手かなと。カバ欠は惜しいけれども、これ後年になって発禁になったのではなかったか。尾崎士郎のは変形版で木版装幀のどっしりとした本。こういう横綴じ本については近いうちに論にまとめようと思っている。それからなんといっても「普賢」。これは凾がついていたらけっこうなお値段のもの。凾欠、それから見返しに何か剥がした痕があり扉が欠なのでこの値段なのか。しかし、である。扉の対抗ページに印が写っておりかつ本文冒頭にも隠し印があった。

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このマークどこかでみたことあるぞと検索したら、やはりそうだ。南満洲鉄道株式会社のマークだ。ということは見返しの剥がし痕は貸し出しカード入れを剥がした痕で満鉄の図書館の旧蔵ということか。これは面白い。

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長田幹彦「文豪の素顔」(要書房)昭和28年11月25日初版カバ帯300円

五味康祐八百長人生論」(角川書店昭和35年7月30日初版カバ帯400円

池田得太郎「家畜小屋」(中央公論社)昭和34年2月20日初版カバ帯2500円

五味康祐のは装幀買い。雁垂カバーに帯付きである。そしてなんといっても、武者小路書房に目録注文した「家畜小屋」。初めて買ってから20年くらい経過したがやっとのこと元版の帯付きを適価で入手。本体は貸本仕様のようだが、外装は状態もよく、これは所持本と差し替え用。

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「太陽」臨時増刊「文芸史」(明治42年2月20日)500円

「日本戯曲全集」月報不揃26部200円

「太陽」の臨時増刊は明治41年までの明治文芸の総括。当時の代表作と今との違いが面白い。そして円本の月報も安い。月報がビニル袋に入ってドサリとあったけれども、そこからこれを。改造社の最初の円本のもあったが、あれも買っておけばよかったか。

いやしかし、買いすぎ。すっからかんである。まあ前回の会場分と合わせてと思って頑張るしかないか。

 

帰って来た古書展

本部会館での古書展は、すでに先週の新興展があったわけだが、今日のぐろりや会古書展はようやく通常営業の2日間開催。特に注文品があったわけではないが、所用で都内に出たので向かう。

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目録送って来た封筒を出して検温、消毒のあと入場。ザーッと見て行く。映像関係多めに出してますという棚、よさそうなお勉強本があるもカバーが破れていたり付箋そのままだったりして安いのかなと思いきや対して安くなく。また他の棚は戦前の雑誌などかなりお安くザクザクあってなかなか面白かったり。一応買っておくかと手に取るも、いま安いからといってこれを買ってどうすると正気になり、結局は文庫本ばかり数冊。

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川本三郎「マイ・バック・ページ」(河出文庫文芸コレクション)カバ帯150円

ロートレアモン「マルドロールの歌」(集英社文庫)カバ150円

高階秀爾「20世紀美術」(ちくま学芸文庫)カバ200円

「文学部学生要覧」200円

文庫はどうでもいいが、「学生要覧」は東大文学部の。昭和23年4月〜24年3月のもの。ちょうど東京帝国大学東京大学と改称し新制大学になった頃合いのもので、本当は戦後直ぐの帝大の頃のもの、すなわち三島由紀夫山崎晃嗣在学中のものが欲しかったが、まあ参考用にと買ってみた。研究室と講師陣、講師の住所録などが掲載されている。

で、その後、久しぶりに田村書店に立ち寄ってみたら、ちょっと探していた本があったので購入。

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久保田万太郎「鵙屋春琴」(劇と評論社)昭和10年8月1日印2000円

もちろん、谷崎潤一郎春琴抄」の劇化台本。論文書いた時にコピーは揃えたが、ようやく。「歌行燈」舞台版と一緒に単行本になっているものは既に持っているのだが、こちらの1篇だけで冊子になっているのは実物を持っていなかった。

そして踵を返し国会図書館へ向かい(16時以降はフリーで入れる)、あれこれとコピーなどしたりして帰途。

1日のみの古書展

6月18日金曜日、1日のみ本部古書会館で新興展古書展が開催されるとのことで、夕方行ってみた。緊急事態宣言以降、もう数ヶ月本部古書会館では古書展をやっておらず、ほんとうに久しぶりである。

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もちろん新興展であるので6割方は和本なのだが、それでもこういう感じでドサッとある本を見ていってあれこれ弄りながら古本を買うってのはやはり楽しい。40分ほど見て回って、お会計。

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「東京書籍商組合五十年史」(東京書籍商組合)昭和12年5月18日裸500円

ブラインズ「マックアーサーズ・ジャパン」(中央公論社)昭和24年6月15日500円

「日本の美学」13号、400円

それから古書会館を出て澤口書店をチラと見たら、外に「アート・シアター」がズラリと500円均一で出ていたので、「憂国小間使の日記」を購入。表紙に「憂国」と入っている方が後版。上映してみて人気だったので後刷分にタイトルを入れたと葛井欣士郎氏に確認したことがある。「東京書籍商組合五十年史」はちょっと面白そうでいろいろと資料になりそうだ。

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そういえば、先週の金曜日はシネマヴェーラ渋谷勅使河原宏の特集をやっていたのでこちらも久々に行ってきた。というのも、大阪万博で上映された安部公房原案脚本、勅使河原宏監督の映画「1日240時間」を上映するというからだ。確かこの映画、ある研究者が草月から掘り出して科研費なんか使って見られるようにしたのではなかったか。その人の研究発表で一部見て以来、これは見たいと思っていたのであった。パビリオン内で上映された3面マルチのちょいとブラックな舞台のような作品であった。

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で、どうも今回のフィルムを借りる時にデッドストックが発見されたのか、受付で公開当時の映画「砂の女」チラシとリーフレット、「他人の顔」シナリオ小冊子3点で1000円というのがあったので購入。

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これは先週買った新刊書だが、このほかにもお勉強用やら資料用やらの古本をあれこれ買ったりしていた。しかし定期的にこのブログをつけないといろいろ忘れてしまう。

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プラーツ「官能の庭」(ありな書房)カバ帯3000円

これなんかは昨日うっかり地元古書店を覗いたらこういう悩ましい価格であったので、買ってしまったもの。今更という気もするがプラーツの凾入りの美術関連書は高いからってので後回しにしてそのままになっていた。段ボールの凾が欠だけれども、カバーもあるしいらないよと。買ってきて帰宅後調べると、いまはありな書房から2冊組み?で出ているようだ。改訳とかしてあるのであろうか。

5月の雪

学校も新学期が始まったが、コロナを巡る状況は相も変わらずどころかまた緊急事態宣言という状況となり、古書展へ足を運ぶ機会も少なくなってきたように思う。宣言以後、あれこれも趣味展まで会場中止。しかしまあ、考えようによっては、それで少し助かったのかもしれない。

というのは、結局会場販売がなくなった愛書会古書展の目録で注文していた高額な本が当たったからである。どのくらい注文がきたのだろうか。10年前ならせどり含めてすごいごとになっていそうでもある。

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三島由紀夫「橋づくし(雪の巻)」(牧羊社)昭和46年1月7日、35000円

いやあ高いものをいってしまった。とはいえ、これ今までの相場感覚からすれば半額以下ではないかとも思う。この本、雪月花と色などが異なるバージョンがそれぞれ120部ずつ合計360部限定版、毛筆署名入りで、生前署名の入った最後の限定本である。外箱に夫婦凾、そのなかに平岡家の家紋である抱き茗荷が入った袱紗にたとうに挟まれた縮緬表紙の和本が入っているという仕様。3冊セットで30前後とかしていたし、バラで1冊でも10万はしていた。この値段は最安値だろう。むろん、本冊見返しにはわずかにポツポツカビが出ており、貼り奥付の箇所が、糊の水分でのびた和紙が乾いて縮まりシワになってしまっているという難点もある。が、こんな値段でなければ貧乏書生には全く手の届かないものだし思い切って注文したものである。

 

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本文。和綴じの芯に橋と月が印刷された紫の紙が用いられており、それが透けてこのような感じに見える。とにかく凝った造本。三島の死んだ直後で版元もこれはすぐに売り切れただろうなあ。誰だったか古書店主のエッセイで、「岬にての物語」限定本が売れず在庫の山を見た云々という記述を見た覚えがある。三島の本なら何でもとなったのは、やはり三島の死によるブームと、折からの戦後初版本、限定本ブームによってであろう。牧羊社のものでは、はるか後年になってから、直筆原稿復刻版をこの限定版「橋づくし」のような体裁で(残存していた三島毛筆署名を綴じ込み)少部数限定刊行した「女方」があるのはあまり知られていない。店を閉じてしまった龍生書林のラストの方の目録に写真入りで掲載されていた。

さて、それはそうと、このブログ1ヶ月あまり更新していなかったが、なにかこれという古書の買物があったかといえば、扶桑書房の目録速報で注文して買ったこれを記しておかなければならない。

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広津柳浪「いとし児」(春陽堂明治27年6月9日5000円

文学世界の第12編である。本文用紙は袋綴じで原稿用紙のように罫線がある。そこに製版印刷された本文。江戸からの流れを汲んだ、まさに製本の近代化の端境期の本といっていい。既に洋紙に活版印刷の小説本はあったのに敢えての造本か。奥付や裏表紙のシリーズラインナップ広告は活字組。ノドの2箇所が朱色の糸で綴じてある。小説百家選とかもそうだが、このへんの装幀造本は本当に興味深い。