漁書日誌 3.0

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5月の雪

学校も新学期が始まったが、コロナを巡る状況は相も変わらずどころかまた緊急事態宣言という状況となり、古書展へ足を運ぶ機会も少なくなってきたように思う。宣言以後、あれこれも趣味展まで会場中止。しかしまあ、考えようによっては、それで少し助かったのかもしれない。

というのは、結局会場販売がなくなった愛書会古書展の目録で注文していた高額な本が当たったからである。どのくらい注文がきたのだろうか。10年前ならせどり含めてすごいごとになっていそうでもある。

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三島由紀夫「橋づくし(雪の巻)」(牧羊社)昭和46年1月7日、35000円

いやあ高いものをいってしまった。とはいえ、これ今までの相場感覚からすれば半額以下ではないかとも思う。この本、雪月花と色などが異なるバージョンがそれぞれ120部ずつ合計360部限定版、毛筆署名入りで、生前署名の入った最後の限定本である。外箱に夫婦凾、そのなかに平岡家の家紋である抱き茗荷が入った袱紗にたとうに挟まれた縮緬表紙の和本が入っているという仕様。3冊セットで30前後とかしていたし、バラで1冊でも10万はしていた。この値段は最安値だろう。むろん、本冊見返しにはわずかにポツポツカビが出ており、貼り奥付の箇所が、糊の水分でのびた和紙が乾いて縮まりシワになってしまっているという難点もある。が、こんな値段でなければ貧乏書生には全く手の届かないものだし思い切って注文したものである。

 

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本文。和綴じの芯に橋と月が印刷された紫の紙が用いられており、それが透けてこのような感じに見える。とにかく凝った造本。三島の死んだ直後で版元もこれはすぐに売り切れただろうなあ。誰だったか古書店主のエッセイで、「岬にての物語」限定本が売れず在庫の山を見た云々という記述を見た覚えがある。三島の本なら何でもとなったのは、やはり三島の死によるブームと、折からの戦後初版本、限定本ブームによってであろう。牧羊社のものでは、はるか後年になってから、直筆原稿復刻版をこの限定版「橋づくし」のような体裁で(残存していた三島毛筆署名を綴じ込み)少部数限定刊行した「女方」があるのはあまり知られていない。店を閉じてしまった龍生書林のラストの方の目録に写真入りで掲載されていた。

さて、それはそうと、このブログ1ヶ月あまり更新していなかったが、なにかこれという古書の買物があったかといえば、扶桑書房の目録速報で注文して買ったこれを記しておかなければならない。

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広津柳浪「いとし児」(春陽堂明治27年6月9日5000円

文学世界の第12編である。本文用紙は袋綴じで原稿用紙のように罫線がある。そこに製版印刷された本文。江戸からの流れを汲んだ、まさに製本の近代化の端境期の本といっていい。既に洋紙に活版印刷の小説本はあったのに敢えての造本か。奥付や裏表紙のシリーズラインナップ広告は活字組。ノドの2箇所が朱色の糸で綴じてある。小説百家選とかもそうだが、このへんの装幀造本は本当に興味深い。