漁書日誌 3.0

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窓展台風クラブ

8月7日木曜日、天気予報を見る限りではどうしたって翌日台風13号は東京を通過するような雲行きであった。夜中から雨、夜半から朝にかけては強めの風雨。こんなふうに台風のど真ん中で古書展に向かうのは実は初めてではないかとも思った。木曜日にうっかり寝過ぎてしまったせいか全然寝付けず、雨音がそれに拍車をかける。結局ドロドロの寝不足で起床してお風呂に入り支度して家を出る。路線バスが遅れているが、傘をさしているだけで横殴りの風雨で足元はすでにぐっしょり。そしてもちろん電車も遅れており。強い風雨の中、瞬間傘を飛ばされそうになりつつ、古書会館へ向かう道すがら「これで台風のため中止」だったらもう目も当てられないなと思っていた。

10時ジャストくらいに古書会館到着。すでに開場している。一目散にあきつ書店の棚に。やはり雨のせいか、ゆったりとみられる感じ。綺麗めな「鏡花叢書」が900円であったが、あれ鏡花は持ってるよなと手放し。しばらくしてから、会場全体を回る。いつの間にかお昼。帳場に取置きを頼んで、昼食に出る。会場を出てみると、さっきまでの暴風雨はなんだったんだという具合で雨も止み風もない。なぜだもう上陸しているのか、それとも台風の目的なものかなどと思いつつ、会場に戻る。ざっと一通り見て行ったが、結局あきつ書店の雑誌のところでいくつか、かわほり堂でいくつか抱えてしまうことになった。来るときは暴風雨の中重い本を持って帰るのは嫌だなあと思っていたのだが、まあ雨も止んだしと買ってしまう。

西条八十「詩集 砂金」(交蘭社)大正11年10月15日15版函300円

青柳瑞穂「詩集 睡眠」(第一書房昭和6年1月20日函欠印300円

佐藤春夫「新詩集 東天紅」(中央公論社昭和13年10月5日函欠500円

まずは詩集。といっても装幀目当てといったところか。「砂金」はよくみる本だが状態が良い。スウェード総革装。「睡眠」は背革装。そして「東天紅」は折本仕立ての造本。

谷崎潤一郎「卍」(新生社)昭和21年12月1日初版函美200円

谷崎潤一郎「鍵」(中央公論社)昭和47年6月5日22版函帯300円

「鍵」は重版調査をしていたので奥付をチェックするのだが22版は現在までに私が把握している最後の版。しかも帯が挟まっていた。「鍵」重版に帯があることは前から聞いており、だいぶ前だがネットオークションに出たのもみたことがある。その時はもっと薄い色の帯だったが。重版はとうにストップして文庫化もされているのに何かの話題で元版の単行本が重版されることがある。「金閣寺」も映画化された時に、「死者の奢り」は著者がノーベル賞受賞した際に元の単行本が重版されている。「鍵」も映画化だろうか。

三島由紀夫「岬にての物語」(櫻井書店)昭和22年12月20日初版表紙背表紙欠3000円

荒木精之「神風連実話」(新人物往来社)昭和46年11月15日初版カバ献呈署名200円

「岬にての物語」に出会うとは思いもよらなかった。しかも表紙欠。これに3千円は高すぎだともいえるが、未だにやけ汚れのある表紙のついた本であれば10万円前後することを考えると、悩ましい。4千円だったら買ってはいない。うまい値付けである。今日一番の高額本。

澁澤龍彦「世界悪女物語」(桃源社)昭和39年4月25日初版カバ400円

澁澤龍彦「妖人奇人館」(桃源社)昭和46年2月20日初版函900円

今更澁澤というところもあるのだが桃源社の単行本は持っていたいなと。ともに帯欠だが構わない。「世界悪女物語」はずっと桃源選書かと思っていたが上製本。「妖人奇人館」は後版を持っていたと思うがこちらは持っていなかった。ただ買ってみて、本としての魅力が薄い。

吉田健一訳「ラフォルグ抄」(小沢書店)昭和50年8月20日初版函函カバ400円

岩谷邦夫「澁澤龍彦の時空」(河出書房新社)平成10年3月25日カバ帯500円

ラフォルグのは20年くらい前に後版を買っているはずなのだけど行方不明なので。函にトンネル型に巻かれているカバーは汚れ背も焼けているが、これは外して本に挟んだ。限定1200部記番、天金。天金といっても赤っぽく変色気味、80年代以降の天金を施してある本でこういうの見かけるが、これって本金ではないからこうなるのだろうなと思う。戦前の第一書房などの天金と比べて明らかに肌理が異なるしどうしても安っぽく見えちゃう。巌谷のはちょっと引用したい箇所があり安く探していたもの。

沼正三「限定愛蔵版 家畜人ヤプー」(角川書店)函外函署名入900円

これは2000円くらいなら…と思ったら千円以下だったのでちょっと嬉しい。沼正三と挿絵を担当している村上芳正(昴名義)の署名が入って、カラー挿絵や見返しなども凝っている造本。しかし限定愛蔵版という割には、そもそも限定何部なのか記載がなく記番もない。パッと見は背革装のように見えるが、これも模造革っぽい。これだけ凝っているのに、奥付には用紙や革などの会社名はなく、素材の説明なども一切ない。編集者がわかってないのだろうな。豪華にすればいいんでしょ、じゃないんだよ。「ラフォルグ抄」と比べれば違いは瞭然。都市出版社からも豪華版が限定2000部(それは限定の部数じゃないのではというのは今は措く)出ているがそれには記番はあった。それでも村上芳正署名が作者署名と同列に並んでいるのが嬉しい本ではある。

「帝国画報」臨時増刊・東京博覧会大画報(明治40年5月)落丁500円

「帝国画報」続東京博覧会大画報(明治40年7月)落丁500円

明治40年の東京勧業博覧会の特集雑誌2冊。冨山房の「帝国画報」である。少し切り取られた箇所があるが、写真が多く見ていて面白い。この東京勧業博覧会って、漱石の「三四郎」に出てくるやつか。

新生新派筋書(南座昭和15年1月300円

新生新派筋書(明治座昭和17年6月300円

「書物往来」大正14年4月200円

「書物往来」大正14年8月200円

南座の筋書は久保田万太郎脚色「春琴抄」上演時のもの。「書物往来」はちょっと読みたい記事があったので。図書館にコピーしに行く交通費を考えれば買った方が早く安い。

いやしかし買いも買ったりだ。今回は「岬にての物語」という大物もあり、けっこう財布を叩いてしまった。鞄に詰めて会場の外に出てみると、雨が降っている。疲労と寝不足でふらふらになりながら帰途についた。これで困るのは本の置き場所だ。薄ものは別としてもどうするのか。

帰宅後、台風は上陸前に熱帯低気圧になったと知る。

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大川企画「笑う」(脚本演出:松森モヘー)@王子小劇場

9月6日夜観劇。機関銃のように会話をしているのだけど意味を取り違えたり聞きそびれたりコミュニケーションがディスコミュニケーションになってしまう皮肉とおかしみ。脚本自体、公演ごとに変わっていきそうな感じがする。