漁書日誌 3.0

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雨は降らなかった趣味展

久々の趣味展である。空は曇り。相変わらず湿度が高い。
9時40分頃古書会館到着。今更急いでもと喫煙所で一服してから列ぶ。いつもよりは人数が少なめだったような気がする。10時開場。扶桑書房と某書店の棚を中心に見る。いやしかし、今日はけっこうよい買い物ができたのではないかと思う。
まずは明治ものから。

森田草平「自叙伝」(春陽堂明治44年12月20日カバ欠少スレ1500円
小杉天外「女夫星」(春陽堂)明治45年6月10日4版カバ欠綴穴汚1000円
小杉天外「新学士」(春陽堂明治37年11月12日再版カバ欠綴穴4頁切取800円
「自叙伝」はこれといった大きなダメージもなく安く買えたと思う。橋口五葉による木版装幀は、中村古峡の「殻」と同じで菊判という大きさに映える。「女夫星」は、口絵というよりも、K.Hiroseによるアート紙に刷られた挿絵が巻頭から本文中に何枚か挿入してある造り。「新学士」の方は、水野年方による多色刷木版口絵付。木版口絵は付いているものの、本文が2枚落丁というものだ。まあこんなのは国会図書館のデジタルライブラリをプリントアウトして挟んでおけばよい。しかし図らずも小杉天外の明治期の著書がかなり揃ってきたなあ。せっかくだし何かに活用できればよいのだが。
お次は明治から大正期のもの。

溝口白羊「家庭新詩 不如帰の歌」(福岡書店他)明治38年10月20日7版カバ欠疲200円
岩野泡鳴「悪魔主義の思想と文芸」(天弦堂)大正4年2月7日初版カバ欠印800円
柳原白蓮「幻の華」(新潮社)大正8年3月25日初版凾欠300円
江馬修「受難者」(新潮社)大正9年4月15日19版汚少痛500円
谷崎潤一郎「お艶殺し」(新潮社:代表的名作選集)昭和6年2月1日83版200円
「不如帰の歌」は、鏑木清方による浪子の木版口絵がある。やたら3版の序とか4版の序とか、他人の序文や跋文などが入っている。扉では14版と記してあるが奥付には7版までしか記しておらず、いい加減な表記である。泡鳴のは以前にも背欠を購入したがようようちゃんとしたのを購入できた。それから「受難者」。大正期ベストセラーものを一応資料として持っておきたいなあと前から安く探していたので嬉しい。しかし大正5年9月に初版が出て、それで4年後にまだ19版って、まあ当時としては売れてることは売れているけれど数百版とかってわけでもなし、「地上」なんかと比べるとどうなのって気もする。また、今日は代表的名作選集がズラッと出ていたが、これも最近はあんまり見なくなってきた。この叢書で欲しいところは棚になかったので、まあ谷崎だけ買っておいたが、途中ゴソッとまとめて買った人がいたようで夕方にはなくなっていた。
次は昭和。

小村雪岱日本橋檜物町」(高見沢木版社)昭和18年5月20日重版口絵と凾欠500円
福田恆存「平衡感覚」(真善美社)昭和23年2月15日再版カバ少破300円
日本橋檜物町」は奥付にただ「重版」としか記載されていないがおそらく再版。この後翌年に3版が出ているが、3版だと元より木版口絵がなく奥付には三版と明記されている。まあ凾口絵欠でも500円なら十分楽しめる。「平衡感覚」はこのカバーが欲しかった。このコラージュ?のような元になってる絵は誰のなんというやつなのだろう。続いて戦後。

澁澤龍彦「貝殻と頭蓋骨」(桃源社)昭和50年5月10日初版凾スレ1500円
メッツ「映画記号学の諸問題」(水声社)カバ500円
谷沢永一「運を引き寄せる十の心得」(ベスト新書)150円
福田歓一「近代の政治思想」(岩波新書)150円
澁澤以外はお勉強用というか。しかしまあ「貝殻と頭蓋骨」もようやく入手。これ、中身は文庫の解説文とか雑文集めただけなのに、何故か澁澤本の中でも高額で、未だに帯付で1万円以上したりしているもの。よく見かけるし数が少ないわけでもないだろうに、なんで往時古書価が2万3万とかしていたのか理解出来ず。今回のは凾がスレてしまっているが、この値段ならと納得して購入。メッツのは、ほんのちょっと線引きがあったが、この値段なら。谷沢永一のこの本については前にも買ってここに書いたと思うのだが、表題とは打って変わって、中身が面白い。近代文学研究という学会、大学という組織、それがどんなにイヤらしく陰湿で権力乞食みたいのが横行しているかということを後半から切々と訴えていて、恨み辛みが籠もった面白い本なのである。
さて、お次は雑誌である。

「文芸倶楽部記念増刊 ふた昔」明治40年6月15日版元製本落丁1000円
「文芸倶楽部」明治30年7月500円
「文芸倶楽部」明治33年10月800円
「女性」昭和2年4月400円
「世代」昭和21年7月創刊号200円
博文館創業20周年記念の「ふた昔」は嬉しい。創業から20年なのでふた昔なのである。武内桂舟の多色刷木版口絵は勿論付いている。饗庭篁村、水蔭、霞亭、藤村、花袋、鏡花、柳浪、眉山等々が寄稿。篁村作の一部に落丁があるためこの価格。こんな上製本で別に販売していたのだなあと。他の「文芸倶楽部」は両方とも木版口絵付。安い。「世代」は創刊号で、矢牧一宏「脱毛の秋」掲載。
いやーしかし、これでもかなり削った結果で、本当はあれやらこれやらも抱えていたのだが資金的に無理であった。というか、けっこうな金額を使ってしまってなかなかキツイところである。しかし扶桑さんは、落丁や乱丁などちゃんと付箋がしてあってわかるようになっており、値札にもその旨記してあるのが良心的。気がつかないお前が悪いとでもいうように、完本のように落丁乱丁本しれーっと売る店もあるのに。