漁書日誌 3.0

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春の趣味展

趣味展である。
いつもながら、朝イチはワタクシにはキツイ。しかし趣味展と窓展のみは朝イチにいかなければならないわけで、生活習慣を破って早朝家を出るのであるが、そもそも朝方に寝る習慣が一日だけ特別にスムーズに眠れるわけもなく。ドロドロの寝不足で向かうのである。平日の朝はいまだ通勤時間帯でありラッシュの電車に揉まれながら、最悪のコンディションで臨む趣味展。今日も開場15分くらい前に到着し、列に並ぶ。
そして10時開場。なんであろう。ここ数年で変わったのは、開場と共になだれ込んで我先にと走り込んでいく人がいなくなってきたということだ。早足ではあるが、血走って体当たりしたりダッシュで滑り込むような手合いはいない。ワタクシの場合、前に40人は入っているわけで、今更走ったところでなにも変わらない。
そして今回驚いたのは、扶桑書房の棚がいつもの2倍近いスペースを有していたことだ。会場にいらした扶桑さんにうかがったところでは、今回は文学堂から引き継いだ荷の最後で、加えて前に仕入れた関井光男旧蔵書なども残りを全部出したという。その代わり、補充はほぼ無しということであった。90分ほど扶桑棚をあれこれと渉猟し、その後、一応会場全体をザーッと回ってから、徹底的に吟味して三分の一くらいをリバース。予算は無限ではない。鴎外「かげ草」初版背痛1500円とか「文芸倶楽部」の風葉「寝白粉」掲載発禁号1000円等々、戻す。帳場に荷物を預け、昼食に向かう。昼食後、再度ザッと見て会計。買ったものは以下である。



尾崎紅葉「此ぬし」(春陽堂明治23年9月1日初版痛1000円
尾崎紅葉「片ゑくぼ」(春陽堂)明治明治28年1月21日再版口絵欠1000円
尾崎紅葉「隣の女」(春陽堂明治28年5月15日3版口絵欠500円
尾崎紅葉「冷熱」(春陽堂明治29年4月17日初版口絵欠美1500円
尾崎紅葉「草紅葉」(冨山房明治36年11月15日初版カバ欠奥付傷300円
図らずも紅葉フィーバーになってしまった。棚には、浪六や弦斎、桜痴の口絵欠本が300〜1000円くらいでゴロゴロ。弦斎や浪六あたりだと口絵がついてもそのくらいの価格。買ったところで読まないし場所も食うしで紅葉に絞ったのである。しかもお気づきであろう、「此ぬし」「片ゑくぼ」は先日扶桑目録で注文して買ったばかりなのである。それよりかは痛んでいるとはいえ、同じものががくりと安く出ているので逡巡しながらも悔しく買ってしまう。本来、「隣の女」は桂舟、「冷熱」は永洗の木版口絵がついている。

菊池幽芳「夏子(愛と罪)前編」(春陽堂明治38年10月13日初版凾欠口絵欠少痛
菊池幽芳「夏子(愛と罪)後編」(春陽堂明治39年1月1日初版凾欠口絵欠少痛2冊揃800円
柳川春葉「生さぬなか下巻」(金尾文淵堂)大正2年5月1日初版凾英朋口絵2葉2500円
口絵欠で揃800円というのはもう1セットあったが戻した。「夏子」は本来ならば清方の木版口絵がついているもの。一方、「生さぬなか」の方は英朋の木版口絵2葉しっかりとついている。本体も非水による木版装幀。凾、本体と色鮮やかな装幀である。

森鴎外「審美綱領 上巻」(春陽堂明治32年6月29日初版400円
森鴎外「人種哲学梗概」(春陽堂明治36年11月25日再版300円
「審美綱領」は上巻のみ2冊あったので、比較的綺麗な方を買う。鴎外さんは、あと「黄禍論」のやつも欲しいのだけれど。

松崎天民「記者懺悔 人間秘話」(新作社)大正13年9月25日初版凾欠背汚300円
永井荷風「新選 永井荷風集」(改造社昭和3年4月1日16版200円
谷崎潤一郎「新選 谷崎潤一郎集」(改造社昭和3年1月20日初版300円
久保田万太郎「歌行燈その他」(小沢書店)昭和16年1月17日初版凾付美800円
雑誌「ホゝヅキ」3号(昭和13年1月)200円
こんな感じである。宮尾しげを伊志井寛らの同人誌「ほおずき」は、前に1冊買って持っているが、これで2冊目。しかし、いろいろと中に張り込まれているはずのエフェメラが全て欠。
そういえば、昼食に出る少し前に、カゴに入れた自分の戦利品を床に置いてちょいと横を向いていたら、60がらみの男性が堂々とカゴの中に手を入れて本を盗ろうとしている。「ちょっと、あなたなにやってんですか」「あ、いや、ただ置いてあるのかと思って…」「いや、カゴの中に入っているんだから人のでしょ、何やってるんですか」というと、少し離れてから急に逆ギレして「何だとこのバカ野郎」ときたので「何がバカ野郎だ、おい、ちょっと待て」とすごむと逃げていった。まったく酷い手合いである。怒鳴れば引っ込むと思っている。装は問屋が卸さない。今までこういうこと繰り返してきた常習犯なのだろうな。あれは。
まあ、そんなこともあったが、収穫としてはホクホクであり予算であった1万円もちょっとだけオーバーしてしまった。生活を考えなければならない。
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その後、マンキツにて仮眠してから両国のシアターXへ向かい、三島由紀夫作の「邯鄲」「卒塔婆小町」を観る。