漁書日誌 3.0

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秀明大・夏目漱石展

秀明大学の学祭「飛翔祭」で開催される「夏目漱石展〜秘蔵コレクションでたどる生涯」に行って来た。今日12日(土)から13日(日)までの2日間開催である。

秀明大・学長の川島幸希氏のコレクションによる展示であり、惜しげも無く展示される資料は一級品ばかり、しかも写真撮影自由というのだから、そこらの文学展とはわけがちがうのである。これまで4回開催され、今回が最終回の5回目で真打ち漱石の登場といった趣き。いつもは閉場間際に駆け込んでいたのだが、今回は朝イチで赴いた。というのも、今回は今回のを含めて全5回の展覧会の図録を特別に合本したものを先着順で頒布するということであったからだ。だから、まずは会場到着してすぐにグッズ売場で合本図録と通常の図録そして「琴のそら音」原稿のクリアファイルとを購入。隣接カフェで一服してから、ゆっくりと展示をみてまわる。


吾輩は猫である」をはじめとして、ズラリとまるで復刻版のようなコンディションの漱石著作が展示されている。例えば「猫」は、8版より上編の表紙およびカバーに「上編」と入るので8版、または重版での色違いのカバーなど細かな違いがわかるような展示。一見何でもなさそうだが、常に重版まで目端を利かせながら何冊も重複しつつこれを実際に集めるのはかなり大変そうである。「三四郎」5版の異装凾などは存在すら知らなかったし、「切抜帖より」初版の異装カバー(本来は凾装)は、今回新発見資料として展示されていた。

もちろん初版本ばかりではない。ズラリと漱石の署名本が一斉に列んでいるのはまさに壮観である。



そして肉筆もの。「琴のそら音」、「長谷川君と余」「道草」部分といった原稿類だけではなく、「猫」「明暗」の校正刷り、「行人」の連載を切り抜いた帳面に自ら修正を加えたもの、そして書簡も長文の四迷宛のものからなにから。
また関連資料として、一葉の書簡、紅葉「金色夜叉」の原稿や肉筆、鴎外の書(未表装)、漱石への献呈署名本、「著者秘蔵」の書き入れがある荷風ふらんす物語」(無論元版の「ふらんす物語」で荷風が持っていた本)、芥川「鼻」原稿なども展示されていた。




そしてこれまた恒例となった、漱石初版本を手に取れるコーナー。「猫」からズラリと漱石初版本が列んでいて、これはすべて手に取ってじっくり見ることが出来るのである。これはまず普通の文学展では出来ない。汚損、盗難、即責任問題となるからだ。その点、その可能性もわかった上で全て個人でとなれば別。そしてガラスケース越しではなく、実際に手に取って見ると古書の魅力は数倍にも増すのは明らか。手触り、重み、香り、めくる動作と、書物の本来あるべき取り扱われかたをされてはじめて魅力も伝わるというものである。

しかしまあ、個人的に興味深かったのは、漱石初版本よりも、同じく手に取ることが出来た「吾輩は猫である」パロディ本の数々。ベストセラータイトル便乗本というか、これまた種々様々で、面白い。


「不如帰」なんかの家庭小説系だと、こういった便乗モドキ小説とか勝手な続編とかあれこれあって、そこいらへんも個人的に興味があってちまちま追いかけているけれども、さすが「猫」あたりになると、タイトルだけのパロディなども多い。
それから、「猫」初出の「ホトトギス」もズラリと並んでいたが、異様なのは連載全回のが列んでいるというのではなく、複数冊ずつ山積みされて列んでいるということであった。一体初出揃いが何セットあるのか。

また、「心」初出の新聞原紙もビニルケースに入って展示。これは掲載部分のみではなくて、掲載された新聞の紙面全部が見られるようになっている。当時どのような紙面の中で読者は読んだのかというのが幾分なりとも追体験できるような仕掛けといっていい。こういう展示もはじめてではなかろうか。

で、これが今回購入した合本図録と通常図録。


川島幸希編「近代文学展図録集」(秀明大学)限定20部10000円
図録「夏目漱石展」1000円
その他、クリアファイルは300円、カレンダーなどもある。限定20部の合本は、紺色のクロス装。上にも触れたが限定20部のうち一般頒布は10部のみで土曜5部日曜5部の販売だそうである。ちなみに今日は10時3分の時点で全部売り切れ。一般の図録も、ここの展覧会は通販を一切やっていないので保存用と閲覧用と買ってしまった。1万円は高いが、もうこれは致し方あるまい。

いままでの図録。これが合本になっている。しかしこういう図録は図書館なんかにも入らないだろうから、カラーで図版たっぷりの、つまり妙な講釈はたれずに圧倒的なブツそのものの魅力で魅せ、なおかつ資料としても貴重になるだろうものであるし、ケチなことはいわないことだ(と自ら言い聞かせる)。

会場の上の階でやっていたカフェで、漱石の顔のラテアート。