漁書日誌 3.0

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雨の七夕下見

金曜日。明治古典会七夕大入札会の一般下見初日。

会場には閉場1時間くらい前に到着。文学ものは地下にまとめられている。受付で荷物を預け、早速地下の会場に入ったが、なんというか全体的にこぢんまりしたような印象。
ザーッと見ていって、「情話新集」初版美本揃いとか荷風のものとかあれこれあったが、今年は三島関係は色紙一枚くらいで本は「岬にての物語」豪華本のみ、ほかの作家のものもこれといった目玉という風に感じるものはなかった。といって、あれこれ手にとっては見たのだが。これは初めて見たというのが本ではなく寺山修司と薄奈々美による「占歌留多」(限定50部)安藤綋平宛献呈署名入りというもの(安藤は寺山と実験映画作った映像作家)。ただ、これは目録にもカラー写真出てるけれども、これ完全に寺山の字ではないよねというのは素人でもわかる。あそこは劇団員がみんな寺山のサインを真似して書けたというし、何の本だったか寺山の回想で秘書や劇団スタッフが忙しい寺山本人の代わりに献呈サインをせっせと書いたというのも読んだことがある。代理署名だろうなあ。
そういえば「道程」署名本のカバーがキレイすぎるという話であったが、やはりこれは復刻版のカバーを付けたもので、あとで見た人に聞いたところカバーに印刷してある復刻の印刷を削ってあるものだった由。ちゃんと会場の札には「カバーは復刻」と記されてあった。最終的に真贋は自分の判断によるほかない。だからこその下見会ではある。芥川の油彩絵は本物だったのだろうか…。
そういえば、今回の目玉である宮沢賢治の原稿やら葉書やらの一括とか芥川のノートとか、谷崎訳の「芸術の一種として見たる殺人に就いて」原稿がないなあ、と探すも、会場には見当たらず。結局、谷崎「人面疽」の原稿を出してもらって、折本仕立てに製本されているそれを手にとってじっくり見るのみ。

200字詰め原稿用紙89枚。惜しいことに冒頭一枚目が欠。しかし「人面疽」は好きな作品なのでじっくり読む。「魔術師」の原稿なんかは、途中から谷崎ではない筆跡になったりするが(その部分はおそらく、当時谷崎の筆耕やっていた木蘇穀の手になるものだと思う)、これは全編同一筆跡で、大正期の谷崎のものと思われる。で、チラチラ直しなどがあってそういうところばかりに目が入ったが、最終行の「どうなりますかな」という文章が気になっていた。というのは、改造社版谷崎全集のテキストだと、「どうなりますかナ」と片仮名書きになっていて、前々から原稿で確認したいなと思っていたからだ。原稿では平仮名であった。あとは、ああ寺山修司のよく紹介されるあの葉書が出たのか、とか、風葉の原稿ねえ、とか、一連の、一枚目欠の戦後作家の原稿など、チラチラ見たくらいか。18時終了。
で、翌日の土曜日である本日。

浅草橋でやっているパラボリカビスで開催中の横田沙夜・吉村眸展を見てから神保町に向かう。今日は大丈夫だろうと高をくくって傘を持ってきていなかったが、どうやらそうは問屋が卸さず、途中から結構降って来た。
古書会館に着いたのが15時50分。一般下見最終日の今日は16時までだが、目玉を見てないしと入場。会場で知人から教えてもらって、目玉になるような商品は2階の特選会場にあるという。で、2階の奥に小部屋のように仕切られたそこにいくと、うやうやしくGケースにそれらが鎮座。「春琴抄」の朱色桐箱入の金蒔絵署名本は、よく見る花柳章太郎宛ではないという(とあとから聞いた)。賢治の原稿は、途中の一枚がぽつんとあるのみ。へえという感じで見る。すぐに時間になり、終わり。
その後。田村書店に行き、外ワゴンから2冊。平凡社選書と旺文社文庫がズラリとあって、200円均一。お、平凡社ライブラリーになってないやつでも買うかなと思ったが、興味のあるところでなってないのは既に買って持っているしなあ、と、2冊のみ購入。

赤瀬雅子「永井荷風とフランス文学」(荒竹出版)凾200円
現代哲学の冒険8「物語」(岩波書店)カバ300円
その後、扶桑事務所に赴く。
おおっというものがあり、財布が緩む。

松本泰「天鵞絨」(籾山書店)大正2年3月5日初版凾欠4800円
長谷川時雨「桜吹雪」(狂言座事務所)大正6年4月13日初版裸500円
こないだの扶桑目録では欲しいものが買えなかったので結局なにも買わなかったし、その代わりだと思えば。胡蝶本の難点である角背の角のところもこれといって痛んでいないし、「天鵞絨」は凾付なら見るけどそれなりのお値段なので凾欠を安くと思っている身にとっては嬉しい収穫であった。胡蝶本もけっこう揃ってきたなあ。長谷川時雨のは歌舞伎の戯曲集で、けっこう写真がいっぱい入っている。