漁書日誌 3.0

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七夕・別離・雨を呼ぶ

しばらくバタバタしていたせいか、ブログもご無沙汰であった。先日趣味展もあったことだし、ということで、細かい印象は忘れたが買ったものくらいは記しておく。

まずは7月5〜6日と一般下見のあった明治古典会七夕古書大入札会。昭和20年代三島由紀夫の手紙が出ていたので見に行ったのだが、中日新聞記者宛のそれは手紙のみで封筒は欠。年代がよくわからない。しかしザッと会場を見て面白かったのは、なんといっても安部公房の手紙であった。

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昭和30年代になってから、満洲時代の恋人?憧れの人?から手紙を貰い、舞い上がる安部公房。既に妻がありながら、手紙の受渡しに編集者を指定したりして、あれこれとばれないように画策する安部公房。とにかくべた褒めに褒めて、会う約束を取り付ける安部公房。そして10通あるラストの手紙は、逢瀬を叶えた後なのか、それまで書いていた相手の名や自分の名を全てイニシャルにし、妙にそっけなさ……これは事後だなと思わせる安部公房。お相手は赤松和子とあった。この人が受け取った手紙をノート?に全面貼付して保存していたものを切り離して出品されていた。こんなものも出てきてしまうわけだ。タイミング的にいろいろあるだろうが。

それから、ちょっと油断していたすきに届いた扶桑書房目録からの注文品。

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若山牧水「別離」(東雲堂書店)大正2年10月20日5版カバ2500円

「別離」は元本で持っておきたいなと、前から安く探していた。初版ではなく重版でじゅうぶんだと、今回カバー付の5版と裸の再版とが数百円違いで出ていたので、せっかくならと5版を注文したのだが、なんと重版異装本であった。初版から少なくとも再版は濃緑色のクロス装角背上製本であったが、これは紙装丸背上製本。本来なら、写真表紙左上のカットが表紙全面に箔押しされているのだが…これはこれで珍しかろうが再版注文すればよかったか。何版から改装されたのであろう。装幀は石井柏亭

お次は、7月19日初日の趣味展。しかし、金曜午後に臨時で入った仕事の仕度が終わらず、残念だが朝イチでは行けず。昼過ぎにチラと覗いたのみ。ただし注文はしっかり当たっていた。

 

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小川未明「雨を呼ぶ樹」(南郊社)大正10年8月15日初版凾欠7500円

佐藤正「オイケンの宗教思想」(アカギ叢書)大正3年8月15日再版200円

中島万次郎「オイケンの哲学」(アカギ叢書)大正3年7月18日11版200円

登張竹風「人間修行」(中央公論社昭和9年7月23日初版凾300円

「定本吉井勇歌集」(養徳社)昭和22年8月25日初版凾300円

小島千加子「三島由紀夫檀一雄」(ちくま文庫)カバ帯200円

注文品というのは、小川未明の本だが、これ、今回から趣味展に参加する武者小路書房さんの目録からの注文品。古書仲間である武者小路さんが店を構え、これで古書店として本格始動というわけである。この本、あんまり見かけない。アカギ叢書は扶桑書房の棚にズラリと200円均一であったが、緑表紙ばかりであったからか売れ残っていた。もしくは赤表紙はだいたい売れてしまったあとだったかもしれない。登張竹風のは、明治時代の回想録なども含む本。当時の鏡花が活写されている。

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これは吉井勇。この本は装幀で買った。横綴じ本で凾に縦に入れる形態といえば、堀辰雄「晩夏」だし武田麟太郎「好色之戒め」だし、谷崎潤一郎「卍」「盲目物語」ほか六部集だし、「紅葉書翰集」だし、斎藤緑雨「緑雨集」「墓笛集」である。近代装幀史における装幀の連鎖。これについてはどこかに書く予定。

 

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こちらは先日神保町に出た際に田村書店の外ワゴンをふと覗いたら吉川逸治宛の吉田健一署名本まつりであったので、そのなかからつまんだもの。

吉田健一「金沢」(河出書房新社)昭和48年7月15日初版凾献呈署名1200円

ヒストリー・オブ。アイディアズ「国家の視座」(平凡社)カバ400円