漁書日誌 3.0

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趣味展中止と日比谷の雪岱展

趣味展、五反田遊古会とここにきて立て続けに古書展が中止となった。もちろん、第2回の緊急事態宣言を受けてのものである。といって、たとえば高円寺の西部会館での均一祭なんかは開催されてはいるが。しかし現在のところ奇跡的に?古書会館での罹患者というのはいないそうなのだが、これが一度でも出たら業界的にも一大事であろう。当然の処置である。

で、会場は中止になったものの目録注文したものは届いた。扶桑書房に注文した鏡花の「国貞ゑがく」である。そして届いたと思ったら、すぐにまた今度は扶桑書房目録が届いた。こちらも欲しいものが残っていた。ということで、古書展は中止になったものの、けっこうな散財である。

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泉鏡花「国貞ゑがく」(春陽堂)明治45年4月15日初版凾欠6000円

後藤末雄「桐屋」(植竹書院)大正3年10月28日初版5000円

鏡花のは五葉の木版装幀。鏡花は完本を求めているわけではないのでこれで十分、状態も悪くなくよい買物であった。そして目録注文した「桐屋」は、後藤末雄の小説集。といってもペラペラの文明叢書、小説が2編収録だけである。後藤末雄の小説は、前に「素顔」を入手しているので、これで全部。ようやくである。「素顔」を入手したのがちょうど10年前。研究とか関係なく単に好きで探していた作家である。十年前に扶桑目録に出た時は今回の四倍くらいしていたようなかすかな記憶だが、手が出せる範囲で出て入手できてよかった。

さて、ほかに最近買った古書といえば、ネットオークションで落札したこんな本がある。

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増田五良「文学界記伝」(聖文閣)昭和14年12月15日カバ極美500部限定300円

この本は復刻版も出ているし、なんだか旧蔵者の誂え凾もついているけれども、まあお勉強用に安ければと入札したもの。しかし凾には増田の落款があるし、中にも蔵書印があり、かつ、誤植訂正の原本とある紙が挟まれている。また復刻版の月報のような冊子も入っていたり、本文に朱で訂正もある。蔵書印から著者本人の保存用本だったのかとわかった。だからなんだという感じでもあるが、自分の本をこういうふうにして保存していたのだなあと思ったことである。でも本当に知りたいのはやっぱり明治終わりくらいの状況なんだけどなあとも。

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で、先週の土曜日、金曜日から開幕した「複製芸術家 小村雪岱」展@日比谷図書文化館へと赴いて来た。ちょうど一日雨で冷え込み、閉場間際ならば客も少ないだろうという狙いもあった。

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監修者は真田幸治君。拙著の装幀をやってくれた人である。20年以上のつき合いのある友人、古書仲間でもあり、雪岱研究の最先端を走る人でもある。今回の展示は、すべて真田君の個人コレクションで、それがまた圧巻。単によく集めたなあというのではない。今回の展示のタイトルにあるように「複製芸術家」としての側面を前面に押し出したものとなっているのである。圧巻だというのは、原画とか鏡花本の装幀といったものというよりも、挿絵掲載の雑誌、新聞の量。いままでも雪岱展自体は行われてきたし、雑誌特集などもあった。鏡花本を代表として綺麗な装幀をする絵描き、もしかしたらそういう認識が雪岱についての一般的なのかもしれない。

本画の手すさびではない。装幀家、挿絵画家として、大量に発行される複製物に白と黒の線画で勝負するのが基本であって、大正から昭和初期にいたる時代の中で複製物を享受する〝大衆〟を意識しながら作品を手がけていったのが雪岱だという揺るぎのないコンセプトがあり、それに基づいた展示構成となっている。

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広告、うちわ、ペラペラの資生堂関係の冊子のようなエフェメラから、新聞連載小説の膨大な切り抜き、あるいは原紙そのままなど、東京日日なり時事新報なり、あるいはまた地方紙なども、切り抜きはまだしも、原紙そのままというのはすごい。また雑誌も、これだけズラリと並べられれば圧倒的である。

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もちろん、装幀本も鏡花本のような有名どころから珍しいところまでズラリ。挿絵、装幀、資生堂関連(雪岱は資生堂意匠部所属だった)と大まかにコーナーに分かれ、「複製芸術家 小村雪岱」の姿が全体的に俯瞰できるようになっている。監修者が装幀デザイナーということもあり、雪岱の一生を画業と共に紹介というのではなく、ビジュアル面での仕事が濃縮された感じの展示で、いくら見ても見飽きないほど興味深く、面白い。文学関係というより、古書マニアはいうまでもなく、デザイン関係、印刷関係の人も必見であろう。また、展示物はすべて写真撮影可能というのもよい。ワタクシといえば、これは珍しい、こんな綺麗な状態の本がというのはキッチリ写真に収めた古書マニアぶりであった。3月22日まで。

監修者による講演のほか、3月にはトークなども予定されているという。