漁書日誌 3.0

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三島由紀夫の旧蔵書を掘り出した

窓展である。
窓展の目録が来たときに、少しだけ余裕があったものだからそしてまた珍しいものが目録に出ていたというのもあるが、いったれと普段なら注文しないような少しお高めのものを注文してしまっていた。財布の管理が出来ない病気である。そして会期が迫ってきて、当たってしまったらけっこうキツイなあと実感し全部はずれてくれないものかしらといい気なことを考えるのであった。
で、当日。9時50分頃に会場到着。どうせ駆け込んでも仕方が無いと友人と一緒に喫煙所で一服してからゆっくり10時に会場入り。あきつ棚をザッと見た後は、会場の他の棚を見て回った。そして注文品は、2点注文したうち、小山六之助「活地獄」傷6000円はハズレだったが、もう1点は当たりであった(逆に「活地獄」の方が欲しかったのだが)。帳場に取り置きしてもらって、食事に出る。食事して一服してから、また会場にまわって、サッと見てから会計と思っていた。
が、ある書店をあれこれ見ていたら、妙なものを見つけた。表紙に「HROK」のスタンプがおしてある「婦人公論」である。この「HROK」は平岡を意味しており、三島由紀夫の旧蔵書におしてあるものだ。三島は保存用の自著や掲載誌、自作に対する批評が掲載された雑誌などは、表紙にこのスタンプもしくはマジックでHROKを書き、ものによっては「要保存」のスタンプをおす。蔵書印にこだわるとかどういうことは一切ない、合理主義的な扱い方をしているのである(ただ、デビュー前の中高生時代の三島は蔵書印を持っていたり、こういうの凝っていたようだ)。
で、手許の「婦人公論」もそうなのである。おおお、何故これがここにという驚きをおさえつつ目次をチェックしてみると、歌舞伎「地獄変」についての劇評が出ているようで、目次の該当部分には赤マジックで点があり、何頁かの書き込みがある。おそらく三島の手になるものであろう。これはほかにもあるかもしれない、と、必死にその棚を徹底的に見て行ったのだが、HROKはこの1冊だけであった。ともあれ、100円である。自分のことながらこれはまたすごい掘り出しをしたなと思ったことであった。
で、ふと見ると、昼前にはなかった本がある。三島の「狩と獲物」初版本の帯付である。4000円。目を疑うような安さだ。10年以上前、ワタクシは1万5千円くらいで帯欠を買って喜んだものである。いくら戦後初版本が値崩れ甚だしいとはいえ、これはこれでみっけものだ。しかし、4千円はキツイということで、抱えていた本をあれこれと吟味して戻す。それでもなあというところだけ残したのだが、結局はかなりの散財になってしまった。あれこれと入り用の年末、こんなに買ってしまって大丈夫なのか。先日の扶桑書房目録注文品の払い込みもまだだし、己の馬鹿さ加減を嘆くのであった。
ということで、会場で買ったもの。まずは単行本。

熊田宗次郎編「洋行奇談 赤毛布」(文禄堂書店)明治35年3月1日8版背少痛500円
平山蘆江・伊藤みはる「理想的さしむかひ」(武田博盛堂)大正2年5月13日初版カバ傷9000円
序文、本文では「はらのやはるを」名義になっている「赤毛布」だが、これは後に「新赤毛布」というのを出す長田秋濤のことなのだろうか。それから、「理想的さしむかひ」は、平山蘆江初期の著作。国会図書館にも所蔵は無いが、伊藤みはるとの共著第2弾のようだ。伊藤みはるというのは、都新聞時代の仲良しで、この本はまあ男女の仲をモチーフにした粋コントのようなものを収めているもの。調べていないが、おそらく都新聞に書いたものだろう。カットも多数入っている。序文は伊原青々園で、口絵は井川洗崖。これがもうひとつの注文品である。

佐藤春夫「病める薔薇」(天祐社)大正7年11月28日初版凾欠500円
三島由紀夫「狩と獲物」(要書房)昭和26年6月15日初版帯少汚4000円
「病める薔薇」も初版凾欠本と重版凾付と持ってはいるが、500円というのは安いよ。好きな本でもあり購入。それから、「狩と獲物」については上記の通り。帯付なんか高嶺の花だったのに、こういうものが場には転がっているのだからなあ。
それから雑誌、冊子類。

「文芸倶楽部」明治30年1月口絵木版欠500円
「風俗科学」昭和29年11月200円
「森脇メモ」1号、昭和29年4月21日少痛500円
「批評」15号300円
「文芸倶楽部」は鏡花「誓の巻」や柳浪「非国民」ほか掲載。「批評」は三島由紀夫らでやっていた雑誌で、この15号入手にてコンプリート。三島のかかわった復刊1号から19号まで揃った。そして「森脇メモ」は御存知森脇将光によるもの。これを見つけた時はちょっと嬉しかった。
で、三島旧蔵の「婦人公論」である。

婦人公論」昭和29年2月号印100円
表紙には「贈呈」と「HROK」印がある。三島旧蔵書の流出といっても、以前から何度か市場にでているのは知っていた。雑誌は知らないが、例えば三島の蔵書印(これとは違う、おそらく中高時代に使っていただろうもの)がある「体操詩集」とか「郡虎彦全集」とか、三島宛署名の入った「水葬物語」だとか…持ち出されたものなのか何らかの理由で流出したものなのかは判然としないが、ともかくある。といっても、HROK印の雑誌は今回初なのか、なあ。こういうの、三島旧蔵とかいって目録に出たらやはり1万円とかするのだろうか。貧乏書生には今回のような100円のものがせいぜいだ。


で、よく見てみると、なんと「地獄変」劇評掲載頁は切り取られていた。三島が切り取ったのだろうか。もしかして、山中湖の三島文学館に所蔵されていたりして。そういえば、前にここでも紹介したと思うが、安部公房蔵書印のある雑誌も掘り出したことがあったなあ。手を真っ黒にしながら雑書の山をかき分けかき分け、掘り出した原石のようなものか。掘り返した時間も、汚れた手も、一気に報われ、凱歌を上げたい、なんとも言えない気分になる。100円でそういった気分になれるのは、おそらく今のところ古書しかない。なにがあるか分からない面白さ、札束でポンと購入するのではない古書展の醍醐味こそ、今回のような掘り出しものにはあるわけだ。
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それから、この窓展以前に近所古本屋で買ったものと扶桑書房の目録で買ったもの。

野溝七生子「山梔」(大正15年9月15日再版凾欠3500円
ジョン・ダワー「増補版 敗戦を抱きしめて」(岩波書店)上下揃カバ帯1300円
野溝が扶桑書房の目録注文品。ダワーは、今更であるが、戦後史をやるにはやはり必読だし、前々から増補版を安く欲しかった。2冊で1冊の定価半額ならばと購入したものである。