絶版品切れでどうしても欲しい本をようよう古書で探し出して入手すると、何故か入手した途端に増補版とか新訳版が文庫で出るというのはどういう皮肉か。こないだの「冬物語」もそうだが、そういうことがままある。また、そこまでくやしい状況というわけではないが、以前に大枚はたいて入手した本が新たな解説を付けて文庫版になるのも正直なところ何ともなあという気がする。それまでは文庫化しないかなあなどと思いながら、一旦古書で入手してしまうと、正直、もう文庫化しないでくれと思ってしまう。まあこちらは大層ケチな考えだが、古書価で一喜一憂している貧乏学徒には覚えがあろう。しかしそれはそれとして、出たとしたってそんなの文庫本なのだから買えばよいという気もするのだが、大抵こういったものを出すちくま学芸文庫なんかは定価も馬鹿にならない価格なのだ。そういう意味で、この頃の新刊で気になっている文庫本。
- 作者: 若林幹夫
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2009/02/04
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- 作者: エルヴィンパノフスキー,Erwin Panofsky,木田元,川戸れい子,上村清雄
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/02/01
- メディア: 文庫
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もちろん元版には元版のよさがある。以前はワタクシ、文庫化されていても元版で買っていた頃もあるのだが、しかしやっぱりスペースの問題もあり、内容も増補なり改訳なりされているのなら、やっぱり文庫の方がよいという考えに変わってきている(だが画集などは別で、例えば河出文庫のエルンスト「百頭女」ほか、ああいうのは文庫化して小さい画にしてしまうと、細い線などは潰れてしまってとても……)。まあ元版の方が装幀がよいとかそういう要素もあるのだが。そして無論、これは論文とか評論とかの話で、小説なんかだと元版至上主義的なところがある。
上記したように、じゃあ両方買えばという話なのだがねえ、今度のやつは河出文庫もなかなか高いし、そうそう買ってはいられない。すぐ買えないのならばまあ余裕のあるときにでも、というのでよければ話は簡単なのだが、そうもいかない。特にちくま学芸文庫。前にも何度か書いたけれども、これの品切れ絶版本の異様なプレミアがたまらない。ネット古書が浸透した現在、この類は名著だから、他に文献がないからということでだろうか、品切れ前からかなりひねった価格を古書として出品する手合いも少なくない。するとその価格を相場と思い込む人間が、己もそのような価格帯で出品する。これは高い相場だと認識した人間が市場で安く拾って高く売ろうと探し始める……こうなると、いつの間にかそれが相場となってしまって、しかし誰も手を出さないし売れないので在庫ばかりというふしぎな存在になる。「機械の中の幽霊」(これも典型的なその類の本だと思うが)をもじって、古書相場の中の幽霊本とでもいおうか。またそんなになってしまったら手も足も出ないのが怖さに、ついつい、特に今必要ではない本でも、この先必要になるかもしれないという漠然とした欲望に動かされてしまって、品切れる前に買っておかないと、と、高額文庫を買ってしまう、自ら認めるところのちくま学芸文庫コンプレックスに陥ってしまうのである。
- 作者: 吉見俊哉
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
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- メディア: 文庫
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- 作者: エルヴィンパノフスキー,Erwin Panofsky,浅野徹,塚田孝雄,福部信敏,阿天坊耀,永沢峻
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2002/11/01
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しかし、ちくま以外に河出文庫のこのラインナップは何なのか。このままこういう関係のラインナップをもっともっと充実させて欲しいものだが…。