木曜金曜土曜と立て続けに神保町に出ている。木曜日は、他に用事で都内に出るついでにとちょっと立ち寄って、盛林堂のワゴンを覗いて買い物をした。金曜日は、愛書会を覗いてから靖国通り沿いの古書ワゴンをザーッと見て行って、盛林堂のワゴンでまた買い物。そして土曜、扶桑事務所で激安棚での買い物のあと、用事に出る前にチラとまた盛林堂のワゴン覗いてという流れ。特選の会場も個人的にはパッとしなかったし、ブックフェスには行けなかったしというある種の欲求不満からの大散財となってしまった今週。ワゴンでは盛林堂がピカイチであった。理由は値段のみならず毎日の補充。
まずは木曜日の買い物。
獅子文六「べつの鍵」(中央公論社)昭和36年7月8日初版凾帯500円
河野典生初期詩的作品集「鷹またはカンドオル王」(深夜叢書社)昭和51年4月28日凾帯献呈署名500円
巌谷大四「おにやらい」(三月書房)昭和38年2月15日特装100部限定署名凾外凾栞付500円
小寺謙吉「宝石本わすれなぐさ」(西澤書店)昭和55年1月15日凾500円
谷崎の「鍵」のパロディのような「べつの鍵」はとうに所持しているのだけれども、帯付きが欲しかったので購入。河野典生のこの本は、実はこれも所持している。前に版元のサイトに版元在庫があるというので、定価で買ったのである。ただし返品分だからか痛みがあるという説明で、積み重ねていたからか貼凾が重みで歪んでしまっている本であった。それよりも状態のよいものが500円、しかもよく見ると扉には横田順彌宛の献呈署名が入っているし、購入せざるを得ない。「わすれなぐさ」も実は昨年の盛林堂ワゴンで買っている。「おにやらい」はろうけつ染め表紙の特装版。といっても、これは中身をパラパラ見たら文壇関係の小話があれこれあって、読みたいということで購入。表紙の布を使った栞が中に入っていた(ちゃんと栞もパラフィンに包まれていた)。
そして金曜日。
まずは愛書会古書展へ。終わり10分前に到着したものの、映画演劇パンフの箱を見ていたらあっと言う間に閉場時間。結局舞台パンフを2冊のみ。
小牧バレエ団5周年記念公演「白鳥の湖」パンフ200円
三越劇場「しんしゃく源氏物語」パンフ200円
小牧の方は昭和28年9月日比谷公会堂でのもの。戦後バレエブームの頃のもので、鮮やかな栞紐が入っており、パンフもシールで止めてあるような凝ったもの。三越劇場の方は、「第1回三越イブニング・プレイ」とあり、文学座の公演。文学座公演というより劇場主催のものということか。そういえば三越劇場の歴史を書いた本ってあるのかしら。1950年代の戦後新劇を考える際にやはり大きな役割を果たした劇場だと思うのだが。
「しんしゃく」のパンフには、上記の藁半紙へ謄写版印刷されたペラが1枚挟み込まれていた。「卒塔婆小町」と「しんしゃく源氏物語」併演のチラシである。キャストに変更があり、かつ「文学座臨時公演」と記されているのが注目される。これが挟み込まれているのを見つけたので買ったようなものだ。
で、その後は外に出て靖国通り沿いの露天ワゴンを冷やかしながら、盛林堂のワゴンへ。ここでまた買い物。
石井鶴三「『宮本武蔵』挿絵集」(朝日新聞社)昭和18年4月25日凾500円
矢野目源一訳「ド・ブレオ氏の色懺悔」(操書房)昭和23年7月10日初版500円
高木彬光「わが一高時代の犯罪」(角川文庫)初カバ200円
石井鶴三の挿絵集は、御存知吉川英治の作品に付けられたもの。文章も抄録。しかし昭和18年の出版物にしてはそれをあまり感じさせない、太平洋戦争以前のような質感と造本。横綴本である。矢野目の訳本は、大正期に出た元版も春陽堂世界名作文庫版も持っているが、戦後の仙花紙本で伏字が埋められていると聞いていて、安く欲しかったもの。是とは別に「情史」というタイトルで出たものの改題再刊本か。
そして土曜日である。
扶桑事務所に行き、激安な棚から。今日から激安棚ということで、聞きつけてやってきた猛者が激突しないよう、お客数名でくじ引きにて買い物の順番を決めて順繰りに本を選んで、という購入方式を指示され、それで購入したのは以下。
平井房人「青い袴30人」(宝琴社出版部)昭和12年3月1日初版凾美800円
葦原邦子「葦笛」(秋豊園出版部)昭和15年1月25日5版凾欠署名生写真3葉付300円
まずはヅカ本。葦原邦子は御存知中原淳一の奥さんで、宝塚時代は男装の麗人といわれていた。なぜか生写真が挟み込まれており、サインも入ってこの値段なら。それから「青い袴30人」は「宝塚叢書第1輯」とある。これは小夜福子から轟夕起子ほか宝塚トップスター30名の写真と文章を収めたもので、著者による装幀もなんとなく「世界大都会尖端ジャズ文学叢書」っぽみがある。平井の名は「ふさんど」と読み、宝塚では美術部に所属。
青柳有美「女の話」(実業之世界社)大正4年3月25日3版裸500円
工藤みさを「憧憬」(越山堂)大正12年2月18日12版凾800円
青柳有美いまさら説明することもないだろうけれども、工藤みさをって誰という人も多い。というか、かくいうワタクシも今回初めて知った。これもたまたま本書に挟み込まれていた著者を紹介する新聞記事切り抜きによれば、著者はシングルマザーの画家で、越山堂の懸賞小説で一等をとって単行本発売となったものという。賞金の500円を獲得したのだろうか。12版というのはかなり売れていそうだが、本当かどうかはわからない。「新人創作叢書」と銘打ってあるが、これ以降出たのかどうかもわからない。奥付裏に懸賞小説募集の広告が出ているが、島清の二番煎じというか、それを狙ったものだったのだろう。大正末の女性マイナー作家というか画家の小説ということで買ってみた。
橘外男「主よ御許に近づかん」(日本書院)大正13年12月29日初版凾800円
大泉黒石「燈を消すな」(大阪屋号書店)昭和4年9月10日初版裸汚800円
田中直樹「モダン・千夜一夜」(チップ・トップ書店)昭和6年4月10日裸100円
八木福次郎「新編 古本屋の手帖」(平凡社ライブラリー)カバ100円
正木香子「文字と楽園」(本の雑誌社)初カバ帯署名500円
「モダン・千夜一夜」は「犯罪科学」の編集長が同誌に連載していたものの単行本化だが、発売禁止になったもの。西欧ヌード写真が多数入っている。最後の「文字と楽園」のみ、今日盛林堂ワゴンで買ったもの。三島が取り上げられているから買わないとと思っていたものである。
いや、しかし買いも買ったりだ。この2週間で、かなりの散財。貧書生のくせして後先考えず大丈夫なのかというところだが、ダメに決まっている。早速本を売る算段を立てないとやっていけない。