漁書日誌 3.0

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薔薇刑余話

さて、先日ようよう完全復刻版の「薔薇刑」も買ったことだし、ということで、「薔薇刑」の話を少々。元版の「薔薇刑」はやはりワタクシが追っかけている三島由紀夫という作家とその作家像という問題を考える上でも極めて大きい要素があるものであったから、これいつか絶対にお金貯めて買うぞ、と、思ってはいた。で、「薔薇刑」は諸版は幾つかあるけれども、やっぱりスタア作家となっていた絶頂の頃の1963年版の元版にこそ意味があるという風に考えていたわけです・・・ですがねえ、まあ大体神保町相場で二十万円前後でしょうか。まあ一朝一夕には参りません。じゃあ「薔薇刑」は遙か彼方の高嶺の花なのか、といえば、そうでもなく、先述の通り諸版あるわけで、写真自体は、否、写真集として後版ならばけっこう入手出来るものなのです。
1963「薔薇刑」(集英社杉浦康平装幀、限定1500部、細江・三島署名入り
1971「新輯版・薔薇刑」(集英社、Shueisha International)横尾忠則装幀、限定1000部
1984「新版・薔薇刑」(集英社粟津潔装幀
1985「新版・薔薇刑」(APERTURE)英語版
1986「新版・薔薇刑」(EDITIONS HOLOGRAME)仏語版
[199?]「新版・薔薇刑」(APERTURE)英語版再版
2008「完全復刻版 薔薇刑」(アートディフュージョン)限定500部
2008「完全復刻版 薔薇刑」(APERTURE)限定500部(日本版と同じだが、別に英文解説冊子添付)
ということで、細かいことを言うと、実はこれだけの種類があります。全部で8点。もう極めつけのマニアの方々は、おそらくこれ全部お持ちと思いますが、無論ワタクシには全く無理な話。お値段の話でいえば、最初の二点がやはりポイントでしょうが、しかし、後版だからといってそうそう舐めているわけにもいきません。昭和五十九年の「新版・薔薇刑」とか、これなんかはワタクシ学生時代の九十年代初頭には普通に紀伊国屋とかに列んでいたんですけれど、定価じゃなくて、そのうち古書店で安く買ってやろうなどといつものようにケチケチ考えていたら、いつの間にか品切れしてみるみるプレミアがついたので慌てて買った覚えがあります。それと、なかなか見ないのはこれの仏語版です。これの英語版も昨今とんと見ません。確か両方とも集英社版と同じく帯がついていたと思いますが、いま普通に洋書屋さんに列んでいる英語版は、はじめから帯がなく、90年代に入ってからの英語版の後刷版ですので、それとも違います(いや無論、中身は全く同じですが、ここでは版の話をしております)。それから今回の完全復刻版ですが、これだってアパーチャーから出た米国版も買うというような人は僅かでしょう。冊子がつくかつかないかというただそれだけの違いですし。でも本当に極めている人ならば、1963年の元版の、フランクフルト国際ブックフェア1963出品時の英独仏語解説冊子付きも所持されているのだろうなあ。当時何部くらいが持ち出され、その翻訳冊子が何部作成されたかはようとして知れませんが。
そして勿論、内容見本は別です。森茉莉他が執筆している1963年版の筒型パラフィンカバー付きの内容見本と、高橋睦郎他が執筆してる真っ黒な表紙にマットな黒で表紙タイトルが印刷されている新輯版の内容見本がありますけれど、昨今では、この内容見本だけでウン万円もする由。もうこうなると、とても低額所得者にはついていけない世界ですが、しかし、こんなものもあるのです。

これは例えば、色彩版「薔薇刑」。「芸術生活」1971年1月号掲載です。新輯版お持ちの方ならば、表紙にこれが使われているのでご存知と思います。こういうバージョンの作品もあるんですね。この雑誌見ると、まあ三島事件以前のものなのでしょう(まあ1月号は12月頭に発売ですものね)。三島生前にこんなことも考えられていたというわけです。この雑誌には新輯版の広告が出ていて、細江・三島・横尾のサイン入り、なんて書かれていたりします。これも実現していたら…とは思いますが、それならもっと極めつけの写真集「男の死」などもあります。まあその話はまた別の機会に譲るとしても1962年のNON展ではじめて「薔薇刑」タイトルが付く以前から、ちょろちょろ雑誌には薔薇刑一連の写真が既に出ていたりします。
細江氏の最近の写真論三部作など読むと、21世紀版「薔薇刑」について書かれていますが、昨年でしたか、時の忘れものというギャラリーで、横尾忠則作の薔薇刑モチーフの作品などが出ていたので、21世紀版はこれを使うのかなあなどと淡い期待を持っていたのですが、どうなるのでしょうか。「薔薇刑」についてはまだ書きたいネタはあるんですが、長くなりそうなので今回はこの辺でチョン。