漁書日誌 3.0

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年明けからそして三島旧蔵書まで

正月があけてから、もう成人式も終わった。正月気分もすっかり抜けて、というか、ここ10年ほど季節感が希薄で、とりわけ今年などは年末の押し詰まった感じやら正月の気分やらも特になく、休みがあった分たまった仕事やらに忙殺される日々に自然と接続といった感じである。

で、1月4日に年明け早々向かった下町古書展、そして今日の趣味展やら、年明けしてから買ったものを振り返りながら記していこうと思う。

下町古書展は、2点のみ。

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ローデンバッハ窪田般弥訳)「死都ブリュージュ」(冥草舎)昭和51年9月15日凾限定1000円

「日本の美学」19号特集時間、300円

ブリュージュ」はとうに持っているのだが(岩波文庫版も)、そこそこ綺麗な状態でいま千円かと思わず買ってしまった。冥草舎は改めて説明するまでもなく、少部数で美装本を刊行していた個人出版社。といっても、ワタクシ的にピンとくるものは多くなく、唯一といえるのはこのローデンバッハである。サテンのような平、背はパッと見皮に見えるクロスで装幀され、凾はご覧のようなツルツルした紙質。このツルツルにポツポツカビが出るのが玉に瑕。所蔵本と入れ換え用か。それから地元の古本屋をチラと覗いて買ったのが次の本。

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西田稔「基地の女」(河出書房)昭和28年6月25日初版カバ帯附録500円

立川のベース周辺での調査を基にしたノンフィクション的な読み物。附録というのは推薦文が月報のような形でついている。占領期カルチャーに興味があるので、この辺はおさえておきたいところ。戦後独立の直後からGHQの検閲を気にしなくなったためか、こうした暴露的な書物がワンサと出るようになる。

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お次は、昨秋に刊行され、知り合いを通じて版元に直接注文して年明けに入手した復刻版の写真集、というか写真の同人誌である「プロヴォーク」である。中平とか大道とかが参加している、これも説明不要の伝説的写真同人誌。以前、ドイツで刊行された「ジャパニーズボックス」という日本戦後写真史の人気写真集の復刻詰め合わせというのがあった。定価15万で500部だか1000部だか限定のである。全3号(2号のみ帯付き)の復刻もそれに入っていたのだが、著作権だがの関係で、収録テキストの一部が白紙状態だったらしい。今回は完全復刻だとの由で、解説の類も一切無し。代わりに内容文を英語中国語に翻訳した冊子がついている。いわゆるセット凾、外凾の類もなく、雑誌ロゴをプリントしたビニル袋のみ。判型もバラバラだし、できれば簡素な帙でも付いてればなあと思うが、それをやったら定価1万円は超えてしまったかもしれない。

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プロヴォーク復刻版全三巻」(二手社)定価8640円

これはけっこういい出来上がりだし、もっと話題になってよいのではないかと思うのだが……やっぱり大道だ中平だの復刻商売が隆盛を極め、もうだいたい出尽くした感もあるからというのもあるんだろうか。なにはあれ、60年代から70年代の人気写真家のプレミア写真集の復刻は、これが出てだいたいもう終わりという感じであろうか。それはそうと、このビニル袋どうやって保管しようか。

 

で、本日金曜の趣味展である。

会場には9時45分くらいに到着しただろうか。今日は雑誌天国だったらしく、友人などは山と買っていたが、ワタクシはといえば、もう既に人垣が出来ている扶桑書房の棚のうしろからたまに手を伸ばして抜いていくという感じ。思わぬものに署名が入っていたり、これがこの値段なのかというところで今回もまた古書漁りを楽しんだわけだが、先の「プロヴォーク」の支払いもあり、会計前に削りに削り、棚に戻し、それでもかなりの散財になってしまった。

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日用百科全書1「和洋礼式」(博文館)奥付欠300円

正岡子規「子規随筆」(弘文館)明治35年10月25日再版裸300円

「和洋礼式」はいわゆるハウツー的実用書だが、大橋乙羽や鏡花らの執筆本として有名だろう。この本も実はとうに持ってはいるが、今回は所持本では欠であった水野年方による木版口絵が入っているのである。けれども今回の本は奥付欠。まさに一長一短。どちらかを処分というわけにもいかず。「子規随筆」も先日買ったが、これはピンピンに綺麗なコンディションで思わず買ってしまった。表紙は五葉だと思う。

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秋琴女子講述「女医者」(晴光館)明治38年10月20日16版

      「続女医者」(晴光館)明治39年3月1日12版正続揃1000円

半分はエロ的、好奇心的なものを満足させる目的のような女医の語る通俗医学談話のような本。日露戦後の世相でこういうのが受けたのであろう。

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下山京子「一葉草紙」(玄黄社)大正3年4月25日再版裸400円

馬場孤蝶「孤蝶随筆」(新作社)大正13年10月10日初版凾欠400円

安成二郎「子を打つ」(アルス)大正14年12月1日初版凾欠献呈署名入800円

下山京子というのは、新聞記者を経て一葉と言う名で芸妓をしていたらしい。その後御茶屋を経営、結婚して田舎へということで、25年の半生を語ると序文にある。随筆から回想からなにやら小説のようなものまで収録。これ前買ったかな、否迷って買わなかったんじゃなかったか…と思ったが、残念、既に買って所持していたと帰宅後に判明。孤蝶のは、ウェッジ文庫で出ていたのと被ったかなとケチケチ思ったが、まあいいやと。「子を打つ」は短篇集で、これもとうにに初版凾付を所持しているが、これは白柳秀湖宛の献呈署名入だったのでまあ買うしかない。

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谷崎潤一郎細雪 上」(中央公論社)限定300部記番昭和21年6月25日カバ800円

     「細雪 下」(中央公論社)限定300部記番昭和24年1月30日カバ800円

惜しくも中巻はなかったけれども、「細雪」特製300部本。しかも状態がいい。外見は全く同じなので、「細雪」の凾欠端本かと誰も見なかったのだろうと思われる。帰り際に待てよと手に取りようやく気づいて買うことにしたもの。この300部本は橘弘一郎の谷崎書誌に未掲載のものである。普及本より紙質が俄然よい。普及本には凾があるがこの特製はおそらく凾の代わりにカバー装。それから、僅かではあるが、本文が少し改訂されている(詳しくは古通連載拙稿参照)。これも既にワンセット所持しているが、状態がよく予備用に購入。

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上田秋成「夢応の鯉魚」(細川書店:細川文庫4)昭和21年12月20初版300円

川崎賢子「蘭の季節」(深夜叢書社)カバ帯300円

細川文庫は粗末な冊子だが、ほぼ全頁に棟方志功の挿絵が入っている。扉も志功。たしか3冊組みで凾の入っているのではなかったか。

さてお次は雑誌。

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「キング」創刊号(大正14年1月)、口絵1葉欠300円

宇宙塵」(昭和38年9月)400円

「日本」創刊号(昭和46年4月)500円

「キング」創刊号は嬉しい。よく出版史の記述などに出ている創刊号である。「宇宙塵」は三島由紀夫の寄稿号。なかに第2回日本SF大会のチラシが挟まれていた。「日本」というのは日本大学学生文化会議出版局が版元のタイプ印刷冊子。保守系サークルか。福田恆存の講演やら三島論やらが掲載されている。500円と高かったが、聞いたことのない文献だし、こういうのはおそらく図書館にも入ってなかろう。

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「週刊娯楽よみうり」昭和33年9月12日号300円

キネマ旬報別冊「日本映画代表シナリオ全集6」(昭和33年11月)200円

鏑木清方挿絵図録 泉鏡花編」(鏑木清方記念美術館)平成18年3月22日300円

キネマ旬報別冊は、帰山教正の「生の耀き」と牛原虚彦の「路上の霊魂」シナリオ掲載というので買ったもの。

次は雑誌というか写真集というか。

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「東京一九四五年・秋」(文化社)裏表紙欠昭和21年1000円

これは前々からちょっと欲しかったもので、残念ながら裏表紙欠によって刊記が不明だけれども、以前七夕に出品されていたのは覚えている。銀座のPXやらオアシス・オブ・ギンザに蝟集する占領軍らの写真が掲載。

そして本日の大収穫。

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サンデー毎日」昭和22年4月臨時増刊HROK印300円

HROK印というのは、前にここで紹介した三島由紀夫の蔵書印である。本名の平岡の意味。扶桑書房のご主人に聞くと、これともう1冊の2冊のみ何故か紛れていたという。三島旧蔵の本や雑誌、ポチポチと流出しているのであろうか。作家本人が生前に持ち出したり貸したりしていた可能性もある。この雑誌には川端康成による「三島由紀夫氏」と写真が掲載。赤鉛筆での書き込みは三島本人によるものかもしれない。

いやしかし、あるものである。

あれこれの締め切りや急な仕事が入ったりで、忙しいのはありがたいことではあるが、年始一気に爆発したような浪費はストレス爆発だったのかもしれない。しかし今後、財布がきつくなりそうだ……。といって、今回持っている本ばかり買っているというのもある。こんなことをしているからどんどんと本が堆積していってしまうのだろうなあ。ゴミ屋敷までいま一歩。

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年が明けてから新刊で買った本。

 

中世の覚醒 (ちくま学芸文庫)

中世の覚醒 (ちくま学芸文庫)

 

 

 

言語と行為 いかにして言葉でものごとを行うか (講談社学術文庫)

言語と行為 いかにして言葉でものごとを行うか (講談社学術文庫)

 

 

 

都市空間の明治維新 (ちくま新書)

都市空間の明治維新 (ちくま新書)

 

 

 

1971年の悪霊 (角川新書)

1971年の悪霊 (角川新書)