毎日暑い日が続く。
東急東横店渋谷大古本市が今夏を以て最後となるという。思えば少し前まで、夏と年末は新宿伊勢丹、新宿小田急、渋谷東急とデパート展はいつものイベントであった。もちろんまだ池袋三省堂などもあるしこれで終わりではないが、何か一時代が終わったような気もする。目録注文品はなかったが、初日、恵比寿ガーデンシネマで映画を見てから夜に渋谷に出て閉場までの90分をじっくり見て回る。
結局、大友克洋「童夢」(双葉社)重版カバ500円といった漫画を1冊購入しただけで、これというものはなかった。中村書店は相も変わらずGケースではなく棚に5万6万といった本が入っていてちょっとギョッとする。鏡花の饅頭本やら「孔雀船」やらそれなりの価格で普通にぽいとあるのである。しかしまあこれで、古本の夏、というようなイメージは終わるのかなあなどと思ったことであった。
映画は、恵比寿ガーデンシネマでやっている特集「ゴーモン珠玉のフランス映画史」で上映されたジョゼフ・ロージーの「鱒」(1982)。日本ではソフト化されておらず、まずめったにスクリーンにかからない作品なのだが、以前映画プロデューサーの藤井浩明氏にこの映画に出てくるゴールデン街の店ほか、日本ロケでいろいろと手伝ったことがあるという話を聞かせてもらったことがあり、前々から気になっていたものであったのだ。鱒は今平の「うなぎ」のうなぎのように象徴的に出てくる。半分が日本ロケの映画。
そういえば、先日銀座のヴァニラ画廊に「石原豪人、林月光 美のイデアを描いた人」展を見に行く前に神保町に出て、田村書店の外ワゴンから以下のような本を買った。
高橋睦郎「聖三角形」(新潮社)昭和47年11月20日初版カバ帯署名300円
「聖三角形」は中扉に署名が入っていたので購入。福永のは大学での講義ノート。
ところで、神保町の小宮山書店で「三島由紀夫展諏訪コレクション」がこの8日から始まった。初日閉店間際に駆けつける。わたくしも三島書誌作成の際にお世話になった諏訪さんが一大コレクションを手放され、その蒐集品を中心にしての展示即売である。この目録がすごい。
1部3000円と、ちと値は張るが、オールカラーで見るだけでも楽しい、そして資料としても一級品の目録となっている。限定500部の由。とりわけ県洋二宛書簡のあれこれ、プレスビブリオマーヌ「鍵のかかる部屋」のいわゆる5部本のうち3部(赤2冊に紺1冊)、これもまた例の「獣の戯れ」総革装本(これについては「初版本」に書いた拙稿を参照)、「岬にての物語」再版カバー付、「美徳のよろめき」限定本の試作カバー付本等々が出ているのが興味深かった。しかしなにより目を引いたのはその映画化、舞台化作品の膨大なポスター展示。地方版からサイズ違いなどバージョンもあれこれあって、見ていて面白い。貧乏書生にはとても手が出ず目録だけでお腹いっぱいだが、これは興味ある人や研究者は見ておいた方がいいと思う。
これは目録掲載の三島由紀夫の結婚式の引き出物。むら田の座布団用生地。こんなものまで載っているのだからすごい。
で、金曜からの城南展だが、結局行けず。その代わり、立ち寄った扶桑書房事務所にて、2冊購入。
萩原朔太郎「氷島」(第一書房)昭和11年5月25日再版凾欠3000円
花柳章太郎「がくや絣」(美和書院)昭和31年10月20日凾限定300部記番署名100円
花柳のは100円コーナーで買ったのだが、何より嬉しいのは「氷島」。初版は昭和9年に千部発行、これは2年後の500部の再版である。初版と再版で装幀が異なるのは有名なところだが、口語自由詩で出発した朔太郎が文語に回帰したこの「氷島」は前々から欲しかったのであった。序詩のように「漂泊者の歌」が収録されているのだが、購入後に入った喫茶店で一人ひもといていて迂闊にもいまさら気がついたが、これ映画「野獣死すべし」(松田優作版)で朗読される詩であった。
しかし今週はこれらとは別になかなか珍しい収穫があった。ネットオークションでの落札品2点である。
「堀口大学遺印撰」袋付
これである。320円で落札。経本仕立てでの印譜となっている。「月下の一群」印やら「大学過眼」やらあれこれ。しかし刊記もなにもなく、これは何かの記念で作ったものなのか、没後に弟子やら遺族やらがこしらえたものなのか、詳細は不明。
そしてもう1点。
これである。谷崎の揮毫を染め抜いた袱紗、桐箱入りで谷崎松子直筆の熨斗がついている。おそらく谷崎没後の、何かの記念品または引き出物だと思うのだが、いつ、どのくらい、なにゆえに作成されたものなのかは不明。1200円であった。
高会堂というタグが付いていたのだが、これはどこのであろう。京都の店であろうか。