漁書日誌 3.0

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七夕下見に池袋リブロ



土曜日。明治古典会棚原古書大入札会の一版下見2日目。川島幸希氏の「初版道場」の付き添いのような形で同行。漱石生誕150年ということもあろうか、例えば漱石の子規宛て書簡3通とか(文末に「子規庵」印あり。昔売却されたものだ)、他にも書簡、原稿、英国留学命令書なんて珍品も出ていた。が、本ということでは、あんまりパッとしないような印象もなきにしもあらず。それでも、立原道造の「散歩詩集」やら萩原朔太郎「月に吠える」無削除版は手に取って見てみたいと思っていた。
まずは4階の文学フロアから見て行く。「恋衣」は中に木村毅の旧蔵印があった。荷風の署名本5冊一括は、うち2冊が森於兎宛署名だ、荷風の「冷笑」はコンディションのよい凾付だが版元移転通知記載の栞は欠だなとか、川口松太郎「鶴八鶴次郎」2冊あるうちの署名のある方は「文芸家協会・前線文庫」という鉄兜デザインの印があるがこの印が逆に珍しいなあとか、内藤千代子の本8冊一括の中ではコンディションが悪くてもやはり大正期の袖珍本が珍しいなあとか、手に取りながらあれこれと見て行ったのである。

少し洋書や美術書も見てから今度は2階へ。ここには特選品が陳列されている。まずは三島由紀夫の英文書簡2通。1965年4月19日付、6月16日付、封筒欠。4月の方は宛先であるガーディアンの記者?ジョン・ホルダーからの返信タイプ手紙のコピーと、ホルダーが書いた三島の記事コピーが付いている。一日語り合ってネクタイの交換などをしたらしい。その割にゃあキッチリ原稿料?取材ギャラ?がまだ振り込まれてないと催促もしている。
それから立原の「散歩詩集」。復刻版があるとはいえ、本物は手漉き和紙の葉書用紙に直に細かく書いているもので、単語によって色が使い分けられている。イリュミナシオンなんかを意識したのであろうか。これがまた本当に細い筆跡で、よくも作ったなあという感じがする。


そして「月に吠える」。その場にいた扶桑書房さんに教えて貰ったのだが、削除された頁に、後版のアルス版の該当ページを貼り合わせて無削除を装ったものがしばしばあるらしいのだが、本物(!)の無削除版であることを確かめるには、紙の目を見るとのこと。感情詩社版は、紙の目が横で、アルス版は縦なのである。無削除の頁を電気に照らすと、紙をすいた時の目が見える。隣に陳列されているアルス版を手に取り、当該頁を明かりに透かしてみる。正にその通り。今回の物は正真正銘の無削除版である。
ほかにも「藤村て、まあ嫌な奴だ」と中原中也小林秀雄に書いた手紙だとか、芥川の「湖南の扇」5版署名本だとか(この本の5版が芥川死の直前で、5版に署名が多いのは自殺を意識したものとも言われている由)、いろいろと見て行ったが、15時半でお開き。その後、川島氏や同行の皆で喫茶店に行って一休みして散開。
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その後、チラと田村書店の外ワゴンを覗いたら、2015年に亡くなった慶應の某仏文学者宛の詩集がゴロゴロあったので、以下の2点のみ購入。


高橋睦郎「詩から無限に遠く」(思潮社)初凾帯献呈署名500円
吉岡実「詩集 薬玉」(書肆山田)凾献呈栞1400円
「薬玉」の方は、栞が2枚入っていてそれぞれペンと毛筆と2種の献呈署名が入っていた。凾に収めようとしたらなかなか入らず、あれれと凾の中を見ると手紙が入っている。版元編集者のもので、パリから帰国している間にこれ届けます云々書いたもの。一瞬、吉岡実の手紙かと思ったが…。
で、順番は逆になるが、ついでに水曜日の池袋リブロの古本市についても記しておく。リブロというか三省堂か。
水曜日、仕事からの帰るさ、友人から池袋に行くかと連絡があった。すっかり忘れていたが、池袋リブロ古本市は今日からだと19時過ぎに気がついた。で、向かって20時少し前に到着。ザーッと見て行く。ポツポツ文庫などを抱えるも、にわとり文庫の棚に行き着いて集中的に見る。ここだけ棚が黒っぽい。前回1500円で諦めた本が500円になっていたり。ということで、閉店時間の21時までじっくり見て数冊購入。


成瀬正勝「明治文学管見」(野田書房)昭和11年2月25日初凾500円
内田魯庵紙魚繁盛記」(書物展望社昭和8年5月20日普及版3版凾欠500円
井出英雅「無職渡世」(鏡浦書房)昭和37年6月30日カバ500円
三田村泰助「内藤湖南」(中公新書)100円
車谷長吉「塩壺の匙」(新潮文庫)初カバ帯150円
上2冊がにわとり文庫で買った本。「明治文学管見」は本体の背題箋欠だが500円ならば。「紙魚繁盛記」もこの価格は嬉しい。最初、裏表紙になにか汚れが付いているなあと思ったら、なんと巨大な紙魚が銀色で刷られているのであった(紙魚は英語でSilverfish)。

「無職渡世」、著者は佐藤春夫門下の人で、佐藤が序文を書いている。新装版もあるが、こちらの元版が欲しかった。「塩壺の匙」は、文庫初版の帯は持ってなかったかなと買ってみたが、帰宅するとしっかり帯付きで所持していた。しかも、である。扶桑書房目録が届いているではないか。1点、これはという出物があったが、残念、売り切れていた。