漁書日誌 3.0

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レクラムのラオコーン

谷崎潤一郎の小説「金色の死」(大正3年)は、主人公の「私」が、莫大な遺産を相続した同級生の「岡村」が箱根の山奥に芸術の桃源郷を建設し自分自身を芸術品として元々美形なのを化粧をして体を鍛えた挙げ句に全身金箔を塗布して生きた菩薩となって踊り狂い皮膚呼吸が出来なくなって死ぬまでを見届ける、というもの。遺産相続と芸術楽園の創造はポウ「アルンハイムの地所」「ランダーの屋敷」に、「私」と岡村の対話はワイルドの芸術論から影響を受け、全身金箔塗りは当時紹介されていたレオン・バクストあたりの舞台衣装なんかから影響を受けたのではないかとという指摘が既にある。で、作中「岡村」が開陳する芸術論はレッシングの「ラオコーン」を批判する形で展開するのだが、所々原文が引用されている。主人公「私」はレクラムの細かい活字を読んだので近眼という設定なのだが、かなり昔、たまたま古本屋でレクラムの「ラオコーン」を見つけ、おおこれは「金色の死」の、ということで買ったことがあった。その後も何度か見つけるのだが、このレクラム文庫、出版年が記載されていない。

上画像の白い表紙のものだけ、扉裏に1967と記載がある。これが所持本4冊中一番新しいもので、おそらく一番古いのは(谷崎が読んだバージョン?)は、その右隣のものかと思われる。下画像、パッと見の印象がちょいと春陽堂の日本小説文庫に似ているようなこの2種も、よく見ると微妙に表紙が異なっている。これはいつぐらいのものなのだろうか。前にレクラム文庫の歴史を書いた本を図書館で見つけて読んだこともあり、そこに時代別による表紙デザインの変遷が記されていたと思ったが、ではこの「ラオコーン」の正確な刊行年代はというと、わからなかった記憶がある。