漁書日誌 3.0

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五月の雪国に紅葉

ちょいと所用で地元繁華街に出たついでに、久々によく行く古本屋を覗いたらオッというものがあったので購入。

濱谷浩「雪国」(毎日新聞社)昭和31年3月30日初版カバ凾欠1500円
田村泰次郎「わが文壇青春記」(新潮社)昭和38年3月20日初版カバ500円
写真集「雪国」は、「裏日本」の生活を撮影したもの。風俗的にも面白いが、例えば夜の雪原などを撮影したものなど、粒子が粗い感じでそのテクスチャーの感じがよく一度実物を手にしてみたいと思っていたのだが、ちょっと痛みがあるけれども手が出る価格で目の前にあったのでいってしまった。データ表が挟み込まれている。田村泰次郎のは、あれこれは文庫化されていないよなと買ってみたもの。大学時代から「肉体の門」の時代までの回想記。
その後別の用事で都内に出て、夜帰宅してみると、こないだ届いた扶桑書房目録速報で注文した本が届いていた。早い。

尾崎紅葉「此ぬし」(春陽堂明治23年9月1日初版印少虫喰3500円
尾崎紅葉小栗風葉「片ゑくぼ」(春陽堂明治28年6月20日4版口絵欠2000円
目録では、風葉のお安いところとか柳浪とか注文したのであるが、2点ほど。「此ぬし」は、どちらかというと本文が整版印刷であり金属活字を用いていない袋とじ和本の印刷製本のままであるということで装幀への興味から。「新作十二番」の一冊。なんといっても口絵木版は芳年美人画である(ヒロインの龍子)。装幀も凝っている。表紙は、何というのか恥ずかしながら知らないが、エンボス加工というか空押というか加工の上に多色刷木版。表2に著者名とタイトル版元が刷られ、1頁目は「文選」の引用というか版面をそのまま木版にして印刷したもの。2〜3頁目に1葉ずつ口絵があり、右側に龍子の絵が来て左側に犬。

これがまた、指輪に胸元には黄薔薇とハイカラだが、画像で見えるだろうか。髪の毛の生え際の微細な処理もさることながら、着物の柄である。黒地に膠(?)を刷ることによってマットで黒の柄を表現している。また、龍子のまわりの余白部分はこれまたエンボス加工のようになっており、1冊の書物の口絵として懲りようがすごい。奥付には、著者、発行者と列んで同じ大きさで彫刻兼印刷者として安井台助の名がある。
「片ゑくぼ」は、年方による木版口絵は欠だが、表紙自体が口絵のような赴きがあり(多色刷木版による美人画)、しかもかなりの美本。2000円ならば買い得であろう。
しかし、なんで僕はいま尾崎紅葉の本などを買っているのだろう。