漁書日誌 3.0

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連休あけなにがし

今までも何度か趣味展当日に目録到着ということはあったが、こないだの趣味展当日に届いた扶桑目録速報で注文した本が連休明けの今日届いた。

尾崎紅葉泉鏡花「なにがし」(春陽堂明治29年5月29日第3版口絵序文欠痛3000円
今回は他にも幾つか欲しいところがあったが、敢えて一点。単行本タイトルの「なにがし」とは、初出の読売新聞紙上では署名が「なにがし」名義であったため。紅葉「予備兵」と鏡花「義血侠血」を収録。初版は明治28年4月28日、奥付でのタイトル表記は「なにかし」と濁らない。「瀧の白糸」でお馴染み「義血侠血」の入ってるこの本は欲しかった。
夜になってからの注文電話だったが運良く残っていた。木版口絵とそれに前後する紅葉による序文が欠(おそらく口絵を引きちぎったのであろう)だが、満足。なんと、欠部分である紅葉序文と口絵のコピーが挟まれた状態で届いた。扶桑さんが入れてくれたのであろう。高額注文でもないにもかかわらず、こうしたちょっとした気遣いが嬉しい。

実は恥ずかしい話、表紙に烏帽子が描いてあるために最初は髷物小説でもないのに不審なと思っていた時があったが、溝口健二監督の「瀧の白糸」(1931)を見て、ああそうかと合点。よく見れば、右の方の丸いのは軍帽で「予備兵」、烏帽子と見えたのは「義血侠血」終盤法廷の場での欣弥の検事法服の帽子であった。軍帽も法服帽子も棒のようなもので繋がっているが、これは帽子かけにひっかけてあるということか。よく見ると上に麦わら帽子?のようなのもあるのだが、どういうことなのか不明。
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つい先日、友人の装幀家・真田幸治氏より発刊されたばかりの「タイポグラフィ学会誌」8号を頂戴した。これには同氏による研究論文「「雪岱文字」の誕生——春陽堂版『鏡花全集』のタイポグラフィ」が掲載されている。

いままで趣味的に語られることが多かった鏡花と雪岱のつながりを、従来の言説を批判的に検討しつつ実証的な証拠を挙げながら本格的に論じたもので、正に待望の論といっていい。この学会誌の判型が大きいこともあり、挿入図版は原寸大のものもふんだんに入っていて、見ているだけでも面白い。タイポグラフィ、デザイン、そして鏡花と雪岱という文学と美術のコラボレーションについて語るには今後必須の文献となるのではないか。彼の雪岱への並々ならぬ情熱を常々横で見聞きしてきたので、それが第一弾としてこういう形になったのは嬉しいところである。
学会誌だが、一般の人も申し込めば購入可能。詳細はHPを参照。