漁書日誌 3.0

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秋雨の趣味展

ここのところ雨が続いている。ちょっと晴れ間が出たかと思いきや、またもや雨である。9時半過ぎに会場に到着しても、雨。既に会館入り口の硝子扉は開けられていたが、ワタクシは傘組、つまり入りきらず外で濡れる位置に列んでいたというわけ。雨だから人が少ないということはおそらく趣味展に限ってはないのであろう。
で、10時開場。
入口のところでカゴを持って扶桑書房の棚へ向かう。しかし今日はいつもほどの混雑ぶりではなかったような印象。扶桑棚だけで1時間は見たか。それからザーッと会場を回って、お昼過ぎ。腹が減ったと取り置き品を預けて外へ出る。雨は止んでいた。軽く食べてから、今度はちょいと用事があって神保町駅から半蔵門線永田町駅へ。国会図書館でコピー数件。折り返し神保町へ戻る。いやしかし、デモの影響か装甲車など来ていたが、ハイキング姿の初老夫婦の姿が目立った。いわゆる聖地巡礼というやつか。
で、田村書店外ワゴンなどザッとまわってから三省堂で新刊書籍を買ったりし、会場へ戻る。再度扶桑の棚を見るが、けっこうリバース品があったようだ。で、最終的に購入するものを決めてお会計。今日はかなり行ってしまった。

谷崎潤一郎「卍」(改造社昭和6年4月20日初版凾欠1000円
確かに表紙の隅とか痛みがあるし全体的に薄汚れがあるが、数年前はこの程度で1万円弱くらいで買ったものだった。今は凾付を買って持っているけれどもあまりに安いのでサブ用として購入。そういえば今日は棚に小山内薫「大川端」の凾背欠1800円とかあったけれど、10年前ならあれでも1万円は超えていたと思う。安い。

澤田撫松編「男三郎自筆 獄中之告白」(独歩社)明治39年9月28日再版300円
雑誌「都の花」1巻3号(明治21年11月)印300円
雑誌「三田文学」(明治44年10月)綴穴1200円
死刑囚・野口男三郎のこの「獄中之告白」は欲しかった本なので嬉しい。野口男三郎、ああ世は夢か幻か…の男三郎である。本名・竹林男三郎。野口寧斎の妹と結婚し、野口姓。金貸し殺しのほか、義兄である寧斎殺し、また未解決だった少年臀部肉切り取り事件の容疑もかかっていた(寧斎が癩病であり、当時癩病に少年の臀部の肉が良いと伝えられていたので、野口家に取り入るために男三郎がやったのだろうと容疑がかけられた)。結果、本人自白のみで有罪になり疑獄事件と騒がれ金貸し殺しで死刑となったというもの。前記した〝男三郎の歌〟は物的証拠がない男三郎の嫌疑に対する同情によって全国に流行、当時のトピックであった。貧窮を強いられていた独歩が、澤田撫松からこの一件を聞き、これはと目を付けて自らの独歩社で出版に踏み切るもあまり売れず、この独歩社唯一の単行本出版によって同社は倒産した由。内容は徳富健次郎の男三郎宛書簡と弁護士花井卓蔵への男三郎書簡などで構成されている。売れなかった、とはいえ、本書は再版。が、初版が9月25日発行、再版は同日印刷で28日発行だから、実態としては版を重ねたのではなくって単に二回に分けて発行したのをいかにも売れているように版表記を再版としたのであろう。
「都の花」は、一応資料として持っておくかと買ったが、四迷の「めぐりあひ」第一回を掲載。しかし今回へまをしてしまったのは「三田文学」であった。というのも、この44年10月の号は谷崎「飈風」掲載号。本号は「飈風」の風俗壊乱によって発売禁止処分となるという号なのである。実はこれよりもコンディションの悪い本号は既に所持していたが、今回は綴穴があるとはいえかなりコンディションもよく1200円もするがいってやれと気持ちがはやってそのまま購入してしまったのだ。で、帰宅してからよくよく確認してみると、なんと、冒頭に掲載されている筈の「飈風」がまるまるない。49頁からはじまっているのである。嘘、落丁かよと思ったものの、いや待てよ、よく見ると、背表紙の紙が少したるんでいるではないか、と。これは…版元で発売禁止の元凶である「飈風」をあらかじめ削除した上で発売されたものではないのか(目次は表2にあり、1頁目から小説本文なので、ベリッと引っぺがして背に糊すれば削除版感完成である)。確証はないものの、そんな気がする。小説ひとつのせいで全て廃棄となったら版元は大打撃であるし、在庫全て押収ハイ終わりではなく、全部とはいわないが、一部こうやって版元削除を施すことで残部の発売を許可されたものか。大正や昭和になってからならそういう話は聞いたことがあるが、この「三田文学」についてはそんな話は聞いたことがない。だが、まあおそらくそういうことなのであろう。とすれば、これはこれで貴重な資料か…と自ら慰めるほかない。

夏目漱石「縮刷 吾輩は猫である」(春陽堂大正9年6月13日66版凾欠痛400円
小栗風葉「縮刷 荒尾譲介」(新潮社)大正8年4月1日8版凾欠痛400円
中村吉蔵訳「サロメ」(南北社)大正2年12月1日2版800円
北原白秋「白秋小唄集」(アルス)大正8年9月15日3版凾400円
「荒尾譲介」は山形の香曽我部という人が昭和10年山形市内の(おそらく古本屋で)買ったものらしい。購入日付などが記された蔵書票が表紙に貼付されている。ただし後ろ見返しには小宮山書店の古いレッテルがあり、扉には「千秋文庫」の蔵書印。千秋文庫は古書で買っていたのだなあと。
そして「サロメ」。800円はちょっと高いなあと思ったが、中村吉蔵のこの訳は大正2年12月の芸術座第2回公演の上演台本であり、松井須磨子サロメを演じた時のもの。当時の配役なども収録されているし、まあ仕方ないか、と。白秋のは状態もよいし、カワイイ本ということで買ってみたが、装幀はてっきり恩地孝四觔かと思いきや矢部季の手になるものであった。矢部季(やべすえ)は、資生堂意匠部の人で(小村雪岱の同僚)、そう思えば、この凾の赤い模様、これは当時の資生堂の包み紙の柄である(「資生堂宣伝史」で見た記憶)。この包み紙の柄の元ネタは、ビアズレーが装幀したベン・ジョンソンの戯曲「ヴェルポーネ」の装幀。今の感覚で言えば、高島屋のバラ柄の包み紙そっくりな装幀みたいなものか(そんなことないか)。
で、お次は読み物系。

津田青楓「漱石と十弟子」(世界文庫)昭和24年1月1日発行初版カバ300円
吉井勇「東京・京都・大阪」(中央公論社)昭和29年11月25日初版カバ200円
村松定孝「泉鏡花研究」(冬樹社)凾500円
青楓のは前々から読みたかったもの。最近も復刊しているけれど、ホントは仙花紙のこれよりも新しい本の方が良かったか。勇のは名随筆。これは15年くらい前に買って読んで面白かった記憶がある。こちらの方がきれいだったので購入。鏡花研究はちょっと古くてアレなのだが、まあ基本的なところは読んでおこうと。
写真右側は、男三郎のやつの扉。「千秋文庫」蔵書印がどでかくおしてある。今回、荒尾とこれと「千秋文庫」本は2冊。ほかに会場でも幾つか見かけた。まだまだあるのであろうなあ。

日影丈吉「ミステリー食事学」(教養文庫)カバ150円
片岡義男「10セントの意識革命」(晶文社)カバ帯ビニカバ300円
西村賢太「歪んだ忌日」(新潮社)カバ帯300円
西村賢太「棺に跨がる」(文藝春秋)カバ帯300円
「ミステリー食事学」の挿画は渡辺東。渡辺温の姪御だったか。西村賢太は、今まで文庫は全部買って読んでいるが、単行本は全部ではなくチラチラ買って読み、段々新刊刊行に追いつかなくなってそのままだった。文庫化するかもわからないし、ちょうどいいやと購入。

ヤクザ専門ライター 365日ビビりまくり日記

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