漁書日誌 3.0

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完本・黒蜥蜴

江戸川乱歩三島由紀夫「完本 黒蜥蜴」(藍峯舎)2014年5月15日限定220部頒価19000円
背革、平紫染バックスキン、天金、多賀新サイン番号入オリジナル銅版口絵1葉


とうとう買ってしまった。一昨年だったか、藍峯舎という聞き慣れない名前の、そしてのっけからポーを背革の限定本で出版している版元として認識はしていた(実は注文後に判明したのだが、この版元を立ち上げた方とは、かつて人に紹介されて酒席を共にしたことがあったのであった。世間は狭いとはこのことである)。このご時世で、今時背革の限定本とすれば、かなりの良心的な価格で発売してはいたのだが、貧乏書生としては指をくわえて見ているほかはなく、第二弾に乱歩が出た時も気にはなったがそのように過ごした。が、今年になって、乱歩の小説「黒蜥蜴」と三島の戯曲「黒蜥蜴」をカップリングした限定本が出るにあたっては、これはもう入手しなければなあと考えていた。三島のだからというのもあるし、これなら欲しいという造本であったからだ。総革で銅版口絵がついて19000円という価格はいまどき版元としてもかなり頑張ったギリギリの価格であろうが、すぐには売り切れまいというのと、この価格でも貧乏書生には高値であったこともあり、早々には手が出せず、ジッとしていた。それがまあ年末にいたり、そろそろ決着をつけないとタイミングを逃すということでエイヤと注文した次第である。
装幀造本は、郄橋千裕氏。元新潮社装幀室の人である。おそらく牧羊社版の限定350部内50部本(牧羊社版は表紙に使ったバックスキンの色に紅、紫、ベージュの3色があるが、300部本は紅、紫が50部、ベージュはごく少部数のみ)を意識したのであろうか、黒と紫のツートンカラーにバックスキン使い、本文は墨一色だが扉は金と墨の二色刷。しかし届いてみて驚いたのは、その分厚さである。396頁、本来なら二冊分が一冊なのであるからこうなるであろうが、却ってどっしりとした重厚感が出てある種の風格を添えている(限定本は大判薄冊のが多い気がする。ああなると、なんだか総革装が却ってレストランのメニューのようで、何ともだし、例えば今プレス本の「狂王」とかあの夫婦凾入の正方形に近い判型のシリーズ、表紙が湿気で反ってしまってるのを多く見かける。とにかく短篇を大判にして挿絵をドカンというのが70年代の流行だったのだろうが、今見ればどうなんだろうというのも少なくなかろう。……文庫サイズの革装本とかもっとあっていい筈だ)。
挿入されている初演時の伊藤熹朔による舞台装置図などは資料としても貴重。乱歩の方のテキストも、従来削除されたものを復活させたものであるという。そういう意味でも、単なる豪華本というのを超えた意味があろう。
思えば、限定の豪華本を定価で購入するのは、奢灞都館の本以来であろうか。本年最後にドンとした買い物であったが、充実の一冊であった。