漁書日誌 3.0

はてなダイアリー廃止(201901)を受けてはてなブログに移設しました。

大雪前の窓展で他人の日記を買う

うっかり窓展は来週だろうと思い込んでいて、確認のために目録を見ると明日になっていると気づいたのが午前5時過ぎ。今から寝たとしても会場10時の30分前に行くとして2時間眠れないなあとお風呂に入り、ベッドに潜るも結局は眠れず。ふらふらのていで神保町に急ぐ。9時38分頃、古書会館到着。既にズラッといる。今更数人遅れたって変わりやしないということで、そばの喫煙所で一服してから列ぶ。そして10時開場。
勿論あきつ狙い。いつもの混雑、いつもの押し合いへし合い。
正午頃、友人と合流してお茶と昼飯。その後しばらく見て会計。結局買ったのは以下。今日は買いすぎた。というか「真珠夫人」購入が痛かったか。

菊池寛真珠夫人 前編」(新潮社)大正13年12月20日18版凾欠
菊池寛真珠夫人 後編」(新潮社)大正13年4月6日14版凾欠 2冊揃3000円
ドラマも見たし既に文庫本で読んだ作品だが、今回、前に出ていたよりもちょっと値下がりしたようなので思い切っていってしまった。こういうの凾欠じゃ意味がないような気もするが、まあ。本体は羽二重に箔押しという装幀。新聞連載時はかなり売れたというが、単行本はそこまでヒットしなかったと前田愛の本で読んだことがある。お次は雑誌など。

「文章世界」明治40年1月号絵葉書欠500円
「文章世界」明治42年5月増刊口絵欠500円
「変態心理」大正12年1月号500円
萬字屋書店「明治大正文学書目」昭和33年11月1日発行300円
1冊500円というのはちょっと高かったか。何故か数冊状態の良い「文章世界」があったので、荷風寄稿号と書斎での漱石の写真が掲載された号を購入。それから、古書関係の本を読んでいてよく出てくる萬字屋書店目録も購入。こまかく特製本の説明などが出ている。掲載されているなかでは、とりわけ、漱石朝日新聞社社内版の本は知らなかった。社内用に小説連載部分を印刷・製本した本で、こんなのはごく数が少ないのだろうなあ。書評用のパイロット版みたいなものか。お次はまあその他。

森鴎外高瀬舟」(春陽堂大正9年12月27日4版凾欠300円
室生犀星「密のあはれ」(新潮社)昭和34年10月5日初版凾100円
塚本邦雄ハムレット」(深夜叢書社)昭和47年10月20日帯ビニカバ200円
新潮日本文学アルバム「泉鏡花」(新潮社)カバ帯100円
「密のあはれ」は安かった。鴎外はまあこの値段なら「高瀬舟」くらいはと買ってしまったもの。
で、今回酔狂にも買ってしまったのは日記である。

「日記」(帝国陸軍官製品?)300円
「当用日記(大正五年)」(鍾美堂書店)大正4年10月1日発行200円
「新案当用日記(大正十二年)」(春陽堂大正11年11月5日発行200円
まず最初に手に取ったのは写真中央のグレーの小型のもの。簡易な製本で刊記などもない。第三中隊第五区隊の粟野君の従軍、というか徴兵で軍隊に入っている時の大正5年2〜10月のあいだの日記のようである。几帳面な綺麗な字で綴られ、所々に赤ペンによるチェックと別名の印があり、毎日初年兵は書かせられ上官のチェックを受けていたのかもしれない。私的感想は一切無く、起床してから何の学科をやり訓示の内容など事細かに記してある。戦時に比べればのんびりしたものなのかもしれない。日常、兵舎の中でどんなプログラムで一日過ごしていたのかわかる資料である。で、これは面白いなと思って棚を見ると他に二冊ほど日記を発見。迷ったが結局買ってしまった。
こちらは既製品の当用日記で、それぞれ半分くらいしか書かれていない。大正5年のは達筆すぎてほとんど読めず。が、もう一つの大正12年のは面白かった。どうも慶應の工学部学生23歳男子の日記で、父母と暮らし、最初の方は事細かに書いてあるのだが、学校が始まると実験などが忙しいのか粗雑な記述になって何日も空白になったりする。それでも友人と浅草に徳田秋声原作の芝居を観に行ったり、メーテルリンク読んだり、叔母がちょこちょこ訪ねてきたり、母親と牛込倶楽部で食事したり、けっこう裕福めな当時の青年の日常が記されてあるのが興味深い。7月8日の記述には有島武郎と波多野秋子の情死事件を新聞で知ってその感想が記してある。

また空白が多くなってきたなと思うと、9月1日に関東大震災の記述があった。そうだ、大正12年といえば震災の年であった。「言語に絶する家の振動は甚だしくさながら舟の波間に動揺するやうだ」「一日生きた心地しない」。大学に市電で通っていたようだが、自宅は大丈夫だったようだ。見舞いに行ったり来られたり、どの方面の火事がまだ続いている、流言飛語等々、日記からは当時情報が混乱していた様が伺える。それから十一月半ばまで町内の夜警をやっている。二交代制らしく当時の交代通知書が挟まれている。十一月くらいからまた空白が多くなり十二月は記されておらず。友人知人の住所録もザーッと所々地図入りで書いてあり、それから面白いのは蔵書目録なる欄にズラリと書名を列記していることで、この青年がどんな本を所持していたのかがわかる。といっても文学方面は、工学部生らしく理系の本や洋書に混じって、漱石上司小剣、浪六などが見える程度。「三太郎の日記」もあった。