漁書日誌 3.0

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第4回扶桑書房一人展と新宿京王


正午開場の扶桑書房一人展のために、11時過ぎに古書会館へ。整理券を受け取り(今年はNo.15)、友人と合流して軽くお茶。
そして、正午に開場である。今回は三分の一くらいかわほり堂の商品が列んでおり、目録で注文がなかった品の他に、千円以下の均一本もかなり混ざっていて、それこそ掘り出しがいがあった。口絵付きの「文芸倶楽部」などもドッサリとあったが、ワタクシには手が出ない。それでまあ集中してあれこれ見て、厳選に厳選を重ねた、明治の本から平成の本まで……ということで、その成果。


谷崎潤一郎「蓼喰ふ虫」(新樹社)昭和30年5月31日限定500部記番谷崎毛筆署名落款入凾スレ少焼5000円
森鴎外訳「即興詩人」上・下(春陽堂明治44年9月25日7版カバ欠揃1500円
福田恆存「平衡感覚」(真善美社)昭和22年12月20日初版カバ欠400円
新小説臨時増刊「天才泉鏡花」短冊欠1500円
平野啓一郎日蝕」(新潮社)初版カバ帯1500円
鈴木三重吉「返らぬ日」(春陽堂)明治45年3月16日再版凾欠1500円
コクトオ「ポトマック」(春陽堂世界名作文庫)初版200円
高峰秀子「巴里ひとりある記」(創芸社)初版カバ欠300円
いやはや、買ったものだ。しかしやっぱり千円以下の本があるというのが嬉しい。この他にも、「校訂 一葉全集」(博文館)重版カバ3500円(カバーは初めて見た。しかし聞くところによれば初期の重版では袋だそうだから、途中から袋からカバーに外装が変わったわけだ)とか広津柳浪「河内屋」(春陽堂)初版4800円とか見かけた。それらは結局手を出さなかったけれど、板垣鷹穂監修「現代芸術の展望」(六文館)凾欠2000円はかなり逡巡した。
いやでも、今回の掘り出しはやっぱり谷崎だろう。小出楢重挿画入りのこちらの戦後版限定本、凾に焼けやスレがあるがこれは安くて素直に嬉しいところ。「即興詩人」も、たまに見かけるがこの値段ならば元版だしいってもいいかな、と。最近の鴎外本凋落は知っているがやっぱり当時影響力甚大だった著名な本は元版で書架に並べたいもの。黒岩涙香も、今回は伊藤秀雄旧蔵書がたくさん出ていたが、やっぱり「無惨」は最初の探偵小説ということで目録に出ているのを見てちょっと欲しかった。しかしちょっと欲しいで20000円は出ない。三重吉の「返らぬ日」は裸だが、五葉木版装幀のこの綺麗な本は前から我が書架に並べたかったもの。明治末あたりのこういう綺麗な本、安く重版が入手できてよかった。三重吉はあの袖珍版みたいのは集めてもきりがないけど。それと唯一の平成の本「日蝕」だが、初版帯で定価以下ならという感じで。「天才泉鏡花」は先日購入して二冊目だが、先日のは裏表紙欠、今回のは裏表紙ついているが挿入されている木版の鏡花短冊欠で、うまくいかないものである。ほかに目録注文した泉鏡花「遊里集」(春陽堂)重版凾欠8000円。
で、会計を済ませて、チラッと日本特価書籍へ立ち寄ってから、今度は都営新宿線にて一路新宿へと向かう。今日は新宿京王古書市の初日でもあるのである。

野上正義「ちんこんか」(三一書房)カバ帯550円
紀田順一郎「内容見本にみる出版昭和史」(本の雑誌社)ビニカバ帯500円
小谷野敦「聖母のいない国」(河出文庫)350円
近代浪漫派文庫42「三島由紀夫」(新学社)800円
草間彌生「マンハッタン自殺未遂常習犯」(角川文庫)315円
鹿島茂「パリ・世紀末パノラマ館」(中公文庫)350円
新藤兼人「小説 田中絹代」(文春文庫)200円
萩尾望都「訪問者」(小学館文庫)100円
「内容見本…」以外は文庫ばかりである。「ちんこんか」は、ここではなく、日本特価書籍に出ていたゾッキ。先日野上監督が逝去したニュースを聞いて買わないとナアと思っていたものだ。この人は、三島と楯の会をパロッたホモポルノ映画などを監督している。他に、矢野峰人「世紀末英文学史」凾揃1500円とか買おうと思っていたが、荷物になるのでやめたのであった。そして肝心の注文品である、塚本邦雄塚本邦雄歌集」(白玉書房)初版函帯2000円は予想通りハズレ。この価格だったら注文殺到だろうなあ、と。
そして夕方、神保町にとって返してきた。
しかしここからがまた一波乱。喫茶店で一服してから、最後にまた会場を見ておけば良かったかなどと思いつつ、扶桑書房事務所を覗きに行く。そこでまた相場からすればバカ安なものを見つけて大量購入してしまうのであった。


小杉天外「コブシ」前編(春陽堂)明治45年7月15日9版カバ痛
同中篇、大正2年4月15日7版カバ
同後篇、明治45年5月15日5版カバ、三冊揃3500円
長田幹彦「自殺者の手記」(新橋堂)大正6年1月5日再版凾欠800円
田口掬汀「女夫波」前編(金色社)明治37年9月1日再版カバ欠
同後篇、明治37年10月1日初版カバ欠、二冊揃3000円
黒岩涙香「新説 破天荒」(扶桑堂)明治43年3月1日再版裸1200円
黒岩涙香「島の娘」初篇(扶桑堂)大正6年10月25日7版凾欠
同終篇、大正6年8月12日3版凾欠、二冊揃1800円
思わず買ってしまったのが以上である。しかし買ったなあ、と。でも、相場からするとずいぶん安い買い物なのである。今回特に、明治期の家庭小説ばかりだが、このへんの当時大流行した家庭小説は前々から裸の重版痛本でいいから安く入手したいものであった。だから前から「乳姉妹」やら「渦巻」やらの口絵欠重版裸本などを買って満足していたので、今回のようなのを見てしまうと思わず手が伸びてしまう。「コブシ」なぞはカバーがついてこの値段である。カバ欠初版揃がこの倍くらいの価格だったが、断然重版ということでこちらを買った(初版のカバーは今回のとデザインが違って表紙と同じ意匠なのだが、初版でも後篇のみ今回のと同じ意匠のコブシデザインのカバー。だから今回のはカバー後版とでもいうのか)。「女夫波」だって、確か明治文学全集に入っていたと思うが、やはり当時の本で読んでみたい。因みに口絵は二冊とも清方(多色印刷)。「島の娘」は一応家庭小説と銘打ってあるのだが、これって映画化されてたよなあと気になって購入。こちらも口絵は清方。そして「破天荒」は確か宇宙にいっちゃうなんだか飛んでもない話で、口絵として月面図がついている。「島の娘」も「破天荒」も、両方ともに黒岩涙香訳となっているが、元が誰のなんという小説なのかは知らない。そうだ、それこそ伊藤秀雄の研究書をひもとけばよいのか。ということで以前ゾッキで買った「黒岩涙香」(三一書房)をあとで見てみよう。
だがまあ、予想外にあれこれと買ってしまって、本当にこれからどうするのか、この年末年始ピイピイの金欠戒厳令、いくら相場から見て安いといったって、狂っている。