漁書日誌 3.0

はてなダイアリー廃止(201901)を受けてはてなブログに移設しました。

小雨けぶる窓展

小雨降るなか、16時半前に古書会館到着。注文品は無し。本当は、後版だけれども、ボール紙本の「高橋阿伝夜叉譚」7000円というのが欲しかったのだが、とてもじゃないがそんな経済事情ではなかった。明治名著全集版でもよいのだが、お伝はそのうち欲しいなあ、と、思っている。
で、まあ、会場だが、あきつ書店とかわほり堂くらいしか見ていない。というか、それだけで閉場時間になってしまったし、それだけでもよかったような気もする。

小山内薫「蝶」(水野書店)明治42年4月30日初版カバ欠1800円
高山辰三編「漱石警句集」(賀集文楽堂発売)大正7年4月5日3版凾欠痛200円
小栗風葉「恋ざめ」(新潮社:代表的名作選集)大正15年8月15日78版200円
大岡昇平「花影」(中央公論文庫)初カバ100円
梅原北明日本版総監督責任「カーマシャストラ」3号300円
会場での収穫は以上。カーマシャストラは、御存知、一応出版地は上海租界になっているという北明のやってた雑誌で、石角春之助「浅草裏譚」とか連載されている。まあ安かったので参考用に。「花影」は作品が好きなので買ったが、これは本当なら帯があると思う。中央公論文庫、と、本体の背だけに印刷されている新書版のあのシリーズ。それから風葉だが、代表的名作選集なんて、こんなの200円くらいでゴロゴロ転がっていたイメージがあり、実際以前そのくらいで興味ありそうなところはザッと拾っていま書架にあるのだが、しかし、最近こういうものでも、妙に千円二千円とつけるところがあるようで、確保した。鏡花だ芥川だの初版とかいうなら別なのだが、思い切りの重版でも、そんなにするの…というのを見かけるし。
それはそうと、「漱石警句集」「蝶」は今回の収穫である。警句集は、まあ漱石が大先生、文豪、という風にイメージ構築されるにあたって力を持っただろうなあ、いや逆か。有名作家のカノン形成の過程を見るのに参照したい資料。しかし不思議なのが、裏表紙には色鳥社とあるのだが、奥付には発行所表記はなく発売所として賀集文楽堂とある。この賀集文楽堂って、谷崎の「鬼の面」の重版も、確かここが発売所であったなあ、と。なんだか版権があちらこちらと売買されていたのかしら。謎である。馬場孤蝶安成貞雄生田長江の序文あり。生田長江といえば、長江訳の「ツァラトゥストラ」の明治43年の初版裸本が300円で出ていて、これはと誘惑にかられたけれども、菊判の分厚いこんなもの置く場所がウチのどこにあるのだと思い直し棚に戻した。だが考えてみれば、これは鴎外の有名な序文が入っている本ではないか、今更だが買っておけばよかったか。それから、なでしこ、こと武林文子の「婦人記者化け込みお目見得廻り」(須原啓興社)も欲しかったのだが、手がでない値段だった。加藤郁乎「ニルヴァギナ」(薔薇十字社)凾200円なんてのも転がっていた。昔その十倍で買ったのになあ。
そして「蝶」。まことに惜しい本。既に裸本は所持しているのだが、そちらがかなり読み込まれて背中がU字型に変形してしまっている疲本であるのに比べ、こちらは極美といいたい綺麗さ。本文もピンピンで復刻かとも思えるコンディションなのだが、が、背中に、ガリガリと鼠に囓られたような傷が数カ所。これは前々からかわほり堂の棚で見かけていて、そのうちにと思っていたのだが、今回、えいや、と。ほかにも、かわほりは荷風なり勇なりのちょっと傷のあるものなどが掘り出し価格でならんでいたそうで、確かに楽しめる棚になっていた。
で、まあその後、モールに立ち寄り、そして東京堂三省堂にも立ち寄って購入した古書と新本。

ラヴジョイ「存在の大いなる連鎖」(晶文社:晶文全書)カバ欠1000円
クリフォード・アレン「異常心理の発見」(ちくま学芸文庫)900円
斎藤環心理学化する社会」(河出文庫)200円
これらは古書で。定価で購入した新刊本は、以下。

ベンヤミン 破壊・収集・記憶 (講談社学術文庫)

ベンヤミン 破壊・収集・記憶 (講談社学術文庫)

お嬢さん (角川文庫)

お嬢さん (角川文庫)

ベンヤミン」は前にも紹介したが、ようよう。それよりも、三島の「お嬢さん」の初文庫化! これはこのブログでも、以前に「あと残るは「お嬢さん」なので角川で文庫化してくれないか」と書いたが、実現したというわけだ。しかし帯文の「婚活女子を先取りした幻のエンターテイメント作品」というのは笑うでしょう、引く手数多の金持ちお嬢を婚活女子といわれても、無理矢理過ぎる。
気になる新刊が幾つか。
身体の歴史 1 〔16-18世紀 ルネサンスから啓蒙時代まで〕 (身体の歴史(全3巻))

身体の歴史 1 〔16-18世紀 ルネサンスから啓蒙時代まで〕 (身体の歴史(全3巻))

完全版 突飛なるものの歴史

完全版 突飛なるものの歴史

尾崎翠 砂丘の彼方へ

尾崎翠 砂丘の彼方へ

それから、今週ネット古書店に注文して買った本。

石原慎太郎「孤独なる戴冠 全エッセイ集」(河出書房)重版カバ500円
石原慎太郎を知りたい 石原慎太郎事典」(勉誠出版)カバ帯1000円
ちょっと必要あって慎太郎のデビュー直後あたりを調べていたのだが、慎太郎特集の「国文学」みたいのはないようだし(?)、政治家になってからのあーだこーだいう評論ならばわんさかあるのだが、純粋に作品研究としての研究論文は少ないようで、「太陽の季節」論が幾つかという状況らしい。で、国会図書館で検索したら写真の慎太郎事典なるものが出てきたが、図書館では細かい項目を半分以下しかコピー出来ないとなるので、まあ千円ならと買ってしまったというわけだ。が、後半の半分を占める文学ガイドという全作品(?)の初出初刊・あらすじなどのデータと、年譜はよいのだが、前半の石原慎太郎と武将とかいう章でズラズラ戦国武将を語るといった項目がちょっとよくわからん、と。これに比べれば、やっぱり佐野真一「誰も書けなかった石原慎太郎」(講談社文庫)がよっぽど詳しいし参考になった。
それと写真には出ていないが、先日出た、原克「美女と機械」(河出書房新社)、古書で欲しいなあと思っていたが、こないだ定価の半額で見つけて無事購入。面白い図版も多くて楽しく読んでいる。明日は銀座スパンアートギャラリーにて丸尾末広新画集記念サイン会。