漁書日誌 3.0

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古書と盲人書簡

ネットオークションも不況か。これぞというもの以外は何も売れない感じである。とかいいつつ、ここ数日でネット古書店に注文して届いたものが以下。

フェリシア・ミラー・フランク「機械仕掛けの歌姫」(東洋書林)2300円
三田照子「ハリウッドの怪優 上山草人とその妻山川浦路」(日本図書刊行会)カバ1000円
前者はこないだ新刊書店で見つけて欲しいなと思って、毎日古書検索して見つけたもの。新刊書はまず古書で、ということで。それから後者である。これ、ちょうど上山草人のことがテレビドラマ(「ハリウッドを駈けた怪優」1995年)になってその後発売されたもの。草人には無論谷崎つながりでも、戦前の俳優という意味でも興味を持っていて、この本はずっと探していた。確か1998年頃にこの本の存在を知って、その時既にアマゾンでは品切れ状態だったので、古書店で探すともなく探していたのである。しっかし全く見ないなあと思っていたのだが、ようよう入手。十年以上かかってしまうとは。
で、そんなもの図書館で読めばよいのだが、実はそうして読んだこともなく、探索の日々の期待が大きすぎたのか、届いて早速読了したのだが、些か…。しかし山川浦路の悲惨な晩年などこれで初めて知り得たし、浦路家にあった資料を使っているので写真などこれでしか見られないものもあり、持っていたい一本である。草人ものは、「煉獄」(新潮社)も「素顔のハリウッド」(実業之日本社)も入手しているので、本としてはあと阿蘭陀書房から出た草人最初の著作「蛇酒」が欲しいところだが、あれは高いので手が出ないなあ、と。中身は谷崎の序文と小説「蛇酒」だが、「蛇酒」とその続編「煉獄」が合冊になっている新潮社の「煉獄」があるから既に両方とも読んではいるのだが、やはり本として持っていたものである。で、今回の本、勿論渡米前の草人の写真なんかもあるけれども、これも珍しいように思う。後年は、頬がこけてダリ的な鬚をはやした独特の相貌が印象的だが、今回の本の渡米前の写真とか、草人に浦路、衣川孔雀に伊庭孝なんかが出演した近代劇協会の「ファウスト」(大正3年3月・帝劇)のプログラム掲載の草人の顔写真を見ると、ちょっと文学座高橋悦史の若い頃のような感じ。まあ、そんなことはどうでもよいのだが。
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本日は、日暮里にあるd-倉庫という劇場に、演劇集団池の下公演「盲人書簡」を観に行ってきた。ここの劇団は創立以来ずっと寺山作品を中心に公演しているところで、丸尾末広をポスターに使っていたりして前々から行きたいと思っていた。
それでまあ今回、である。「盲人書簡」自体は、天井桟敷のは無論観ていないけれども、月蝕歌劇団やら演劇実験室◎万有引力がかつてやったものは観ている。特に後者は、パルテノン多摩での「百年気球ラビリュントス」という同時多発野外劇で劇場に籠もって完全暗転の中で観客の服脱がせたりとか実験的にやったのと、法大ホールで本公演としてやったのとある。両方とも十年くらい前の話か。それで今回見終わってみて…なのだが、音楽にシーザーを使わず、それで戯曲にある劇中歌をどう処理するかなあと気になっていた。が、結局今回の上演ではそれらはカット。今回のとか「邪宗門」もそうだが、やっぱりある種の音楽劇的要素が強いので、あれらを全くカットし全部の場面を暗転のみで繋げていくと、どうも場面場面の各エピソードの全体感が薄れるような気がしてしまう。それとラストの処理。戯曲では、そして上記二つの再演では、敢えて「再現」として戯曲通りにやっていた。つまり衣裳を脱いだ俳優が私服で素顔で自分の言葉を語り出し名乗りを上げる、というシーン(戯曲にはこれは上演の記録でラストの台詞は俳優が各自で述べたようなことになっているが、ちゃんと前もって寺山が用意したんじゃないかと思う)。今更あんなこと本気でやられてもうすら寒いだろうけれども、この現代そこをどう料理するかを期待していた。
寺山の70年代初頭の芝居は、劇場性とか客席と舞台とか、そういう既成概念の破壊実験みたいなものが優先していて、ハッキリ言ってストーリー自体は過去の自作のどこかで見かけたようなものとかスピンオフ的な挿話とか、そんなもののミクスなのだが、そこからそういった実験性を取り除いてしまうと、なかなかキツイ気がする。今回は明智と小林少年の話がメインなので、「邪宗門」なんかよりはまだましだと思うが。シーザーの音楽とか、セーラー服、白塗り、苦力とか、出来上がっちゃった寺山舞台イメージを脱して、テクスト自体の可能性を模索する、というような姿勢はうかがわれたが、バラバラの挿話をまとめてやっただけ、というような今回の感じは、演出のせいなのか元々寺山のテクストがそういうものなのかムムムというところであった。(18日19時30分開演。21日まで。)