漁書日誌 3.0

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青展戦果・古書会館篇

青展である。神田古本まつり特選古書即売展。

今朝は七時に起床、仕度、出発。会場の本部古書会館到着は九時少し過ぎ。その時点で八人目。やはり開場十五分前くらいになると続々とお客が列をなす。十分前に入口のガラスドアが開けられ、階下の会場入口まで。そこでいままで一列で並んできたのが、ワーッと団子状に固まる。こういう時に紛れて前にずる混みするのがいるものだ。そして競馬のゲートではないが、ジャストに開場。先頭集団の一群は、ほぼ皆向かう棚は決まっており。あきつ。ドンドン後ろから群がるために、押されて棚が動く。前列にいる者は身動き出来なくなる。勝負ははじまりの五分、否十分くらいで決まってしまうようなところがあるのではないか。
実は今回は、ここ数年この現場ではよい思いをしていない、というか毎年段々収穫物がなくなっていくことから、掘り出しなんてのは期待出来ず、今年もどうせまあ…と、全く期待していなかった。不況でもあるし。だが、運良くポイポイとよさそうなものが開始後数分で見つけ、無事確保。何冊も重ねて持っているとそれが崩れ、落とし、その間に他者に拾われてしまうかもということから、開始後十分くらいで取り敢えずズラッと抱えて帳場に預かって貰う。つまりいま棚を離れてしまっても来た甲斐はあった、と、その場を離れたのである(いつもならもっと執着したろう)。預かって貰うときも、また返して貰うときに別にいちいち身分証確認して渡すわけではないので、勝手に札に書いてある名前を言って盗んでいってしまう輩を防止するために、よさそうな本は下の方に重ね、13冊ありますからと複数回口頭で繰り返し預かって貰う(これは決して神経質すぎる所業ではない)。で、また手ぶらになって棚を漁る。かわほりや日本書房などの棚を見に行く。漁る。
気が付くと正午。集団熱狂状態の中で寝不足も吹っ飛ぶ。で、念のため取り敢えずこれだけは必ず購入するというめっけものだけ購入、それを持って昼食タイム。
で、午後の部。一応、会場内全部の棚を見て回り、何度も見た棚は再度集中して見る。広津柳浪「河内屋」初版痛本5800円、水島爾保布東海道五十三次」初版凾欠4500円等々、おおこれはと思うものもあったのだが、一冊三千円以上は出せないかなあ、と、諦める。鬼太郎の凾付のアレとか欲しかった。でまあ、こんなものだろうと新たに抱えた本を帳場へ持っていき、先程の預けた本の残りを出して貰う。選別タイム。軍資金は限られている。大正初期の「中央公論」や、森鴎外「新一幕物」(籾山書店)初版凾欠1800円、胡蝶本だしなあと思ったが結局棚に戻し。いつもの古書展ならこれは買っているだろうけれども。で、今度は外。靖国通りをザーッと流す。二冊ほど。それから三省堂裏の喫煙所で一服、古書仲間の方とダベってから再度古書会館へ。補充分やら、会計時に抱えていたけどやっぱり戻すといったリバース分などがあるかもしれないので、実はこういう時間帯も気が抜けないのである。でまあ、先程は気づかなかったのか、補充分なのか、幾つか拾って、本日の戦いは終了。
で、以下が戦果。

二葉亭四迷訳「浮草」(金尾文淵堂)明治41年9月23日初版帙欠背傷1800円
雑誌「太陽」明治32年2月5日号300円
木村艸太「魔の宴」(朝日新聞社)昭和25年5月30日初版カバ付900円
林芙美子「晩菊」(河出書房市民文庫)初版帯200円
御存知「浮草」は五葉装幀本文二色刷のあれ。まあコンディションはそれほどよくはないが、二千円以下だしよいか、と。「太陽」は、この時期のものを持っていないので、参考資料として買っておくかと抱えたものだが、鏡花、水蔭、露伴、柳浪などが執筆してる号だった。お次の「魔の宴」は、「新思潮」同人でもあった木村艸太(木村荘太)の自伝というか回想録だが、これはもう大分前から欲しく、しかし千円以下でなくては買わないぞと千円縛りを自分ルールとして探していたもの。日本図書センターから復刻版も出ているがあんなもの個人が買うものではないし、本物の方を今回ようよう入手。因みに著者は出版直前謎の自殺を遂げている。で、市民文庫の「晩菊」は、解説を三島由紀夫が担当、あまり知られていないが、解説のみならず収録短篇のセレクトつまり編集も三島が行っているものなのである。


雑誌「実業之日本」臨増・御大葬記念写真 大正1年10月1日4版300円
雑誌「中学文壇」明治36年8月15日号400円
雑誌「朝日ソノラマ昭和36年6月号200円
雑誌「犯罪科学」昭和6年4月号美500円
雑誌「犯罪科学」昭和6年5月号美500円
小林秀雄私小説論」(作品社:作品文庫)昭和13年6月30日初版カバ凾欠印800円
雑誌は総じて安かった印象。「犯罪科学」は谷崎潤一郎訳のド・クインシー「芸術の一種として見たる殺人に就いて」の連載分。でもピンピンの状態で500円というのは安いと思う。「実業之日本」「中学文壇」は単なる参考資料として。前者は、御大葬特集というので大正天皇のかと思ったが、明治天皇の御大葬特集。写真や資料もたっぷりだし、これはいい資料である。「中学文壇」というのは全く知らなかったが、投稿中学生のための雑誌。こういうところから作家予備軍が出てきて、「文章倶楽部」とかにも投稿するようになるのだろうなあ。「朝日ソノラマ」のこの号は、谷崎自身が朗読した「細雪」を収めたソノシートがついているもの。ドサッとあった「朝日ソノラマ」の束から探した。こういう号があるのは前から知っていて当該号のジャケを記憶していたのですぐピンときた。でも同じ「朝日ソノラマ」で谷崎が死んだときの特集でも「細雪」朗読入れているんだよなあ。個人的には「細雪」より朗読は「瘋癲」が欲しい。「私小説論」はカバーも凾もないが、まあよいかと購入。

国立劇場芸能調査室編「椿説弓張月 上演資料集」昭和44年11月、200円
高木彬光死神博士」(偕成社)初版カバ欠900円
三島由紀夫張良澤他訳)「金閣寺」(大地出版社)増訂版400円
西脇順三郎「あんどろめだ」(トリトン社)昭和30年1月1日発行限定500部カバへこみ700円
金閣寺」は台湾での訳本。中華民国65年5月発行とのことだが、西暦だと何年だろう。それから「あんどろめだ」は元パラもついており、全頁アンカットの未読状態なのだが、惜しいことに、紐でくくった跡が表紙についてしまっている。それでもまあ千円以下は安すぎる。

雑誌「文芸倶楽部」明治29年2月臨増「青年小説」口絵欠500円
雑誌「文芸倶楽部」明治29年9月号口絵欠500円
江見水蔭「短篇小説 明治文庫第三編」明治26年11月15日口絵欠900円
石橋思案「短篇小説 明治文庫第拾二編」明治27年6月7日口絵欠900円
どれもこれも多色刷木版口絵が欠だが、はっきりいって、こんな風に手頃な値段で入手出来るならば口絵など欠の方がワタクシにとってどれほどよいか。「青年小説」の方は、鏡花「化銀杏」ほか、天外、花袋、風葉、春葉等々の小説掲載。で、9月号の方も、鏡花の小説他掲載されているが、巻頭は小栗風葉「寝白粉」・・・というと、あれ、これ、発禁喰らった号ではないの、とあとから気づく。お得だ。で「明治文庫」の方。短篇集である。本当は、桂舟の多色木版口絵がつくのだがこれも欠。
さて、ようようメインです。

永井荷風「散柳窓夕栄」(籾山書店)大正3年3月5日初版凾欠1500円
永井荷風「夢の女」(籾山書店)大正5年5月15日縮刷初版凾欠400円
これは安い。このくらいでこういったものが出てくれればよいのだけれど、まあまずそんな調子よくいくものではない。これらも、コンディションも悪くないし、こんな値段ならホント嬉しいところである。荷風も、よいところ、完本は高価だが、この時期のものはやっぱり集めて持っておきたいところで、こういう感じの凾欠カバ欠本はワタクシ的によい。

二葉亭四迷訳「カルコ集」(春陽堂明治40年12月5日初版カバ欠美500円
泉鏡花草迷宮」(春陽堂明治41年1月1日初版カバ欠痛タイトル赤文字900円
泉鏡花日本橋」(千章館)再版背焼け痛凾欠2880円
いやあ「カルコ集」の方は外装欠だが、いわゆるカチッとした(!)美本。こんな美本でなにゆえに500円なのだろう、と。そしてこちらはそりゃあ状態よいとはいえないけれども「草迷宮」の初版が900円。口絵もちゃんと二枚ついてる(この本は木版ではないけど)。ちなみにこの「草迷宮」だが、平箔押しタイトルが白のものと赤のものと二種類あるといつだったか人に教えられた。そしてまさかの「日本橋」、こんなところで出くわすとは。「日本橋」は、会場で一緒に来ていた友人に請われそのまま譲ったので写真はない。
いやはやしかし、買いも買ったりである。「日本橋」も「草迷宮」も荷風のも、開場五分そこそこの間に既にゲット出来たものだが、しかし今年は思わぬ大収穫といってよいかもしれない。大収穫だ、と喜ぶのもよいが、しかし、個人的にはこれでしばらく金欠統制令である。
さてそれから、外。
ザーッと流したと先述したが、結局そこで買ったものは、
権田萬治編「海外ミステリー事典」(新潮選書)初版カバ帯1000円
尾崎一雄「すみっこ」(講談社)昭和30年4月30日初版カバ帯900円

「ミステリー事典」、こないだ買った日本編はあるし、今回の海外編でやっと揃ったわけだ。「すみっこ」はちょっとある理由があって以前から安く初版帯付を探していたもの。
そして明日は、すずらん通りか。だがしかし、こうした収穫を得て、本日の唯一の痛恨事であったのは、本日、扶桑書房目録が来たということだ。帰宅後目録を見たら、コンディションの問題もあるだろうが、なんだか驚異的な低価格の本があれこれと出ていた。