漁書日誌 3.0

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第2回扶桑書房一人展・その二

さて、前回に引き続き第二回扶桑書房一人展。しかしどうも風邪をひきかけのようで体調不良。こういう露出趣味はやめておいた方がよいぞ、という虫の知らせなのかもしれない。
まあそれで、正午に開場。最初にどの棚に向かったか、が、運命の分かれ道である。一部かなりの人だかりを縫うように棚を見ていく。とはいえ、青展時のあきつ棚前のような押し合いへし合いはないのがよい感じ。混んでいるとはいえ、そこは上品。でまあ必死に棚の書物に眼を走らせているウチに、正に、あっという間に一時間。ゴソリと抱えたものを、会場のすみっこに持っていき、ここでじっくりあれこれ選び直す。キープ、棚戻し、と選別。このくらいの時間になると、皆同じように選び直して、いらないものは棚に戻るので、このリバース商品を目当てに再々度棚を見ていくのも重要である。でまあ、最終的には、ガラスケースの商品には全く縁がなく、棚から選んで購入にいたった本は、主に以下のようなものなどであった。


尾崎紅葉遺稿「病骨録」(文禄堂書店)明治37年3月1日初版、少痛汚1000円
村井弦斎「日之出島 白鬚之巻」(春陽堂)明治33年1月1日初版、カバ欠表紙痛汚、木版口絵は美1200円
まずは明治の本。何だか知らないが紅葉の『病骨録』は会場に初版が三冊あった。それぞれ状態が似たような感じだったが、一番安い表紙の汚れているのを拾う。千円だもの。それと弦斎は、もう一冊あったが、すぐに売れたようだ。メジャーな「日之出島」の方を拾う。表紙はカビも出てちょっと…という状態だが、まあ口絵の木版画は綺麗に残っていたのでよし。

江見水蔭硯友社と紅葉」(改造社昭和2年4月3日初版、凾欠1000円
武林無想庵「文明病患者」(改造社)大正15年7月3日初版、凾欠背焼2000円
あとは明治以外のもの。まあ「硯友社と紅葉」は見かける本だが、お金をかけずに入手したく思っていたので、千円ならと。無想庵のは、他に「結婚礼賛」初版凾1300円というのがあった。といっても、凾の背が取れてる(かけらはちゃんとある)ので修理が必要だが、しかし、間際になって、そういえば凾欠持っていたなあと思い出し棚に戻したという経緯があった。辻潤関連も、「自我経」「阿片吸引者」「一青年の告白」「絶望の書」などすべて外装付きで三千円以下で出ていたが、まあ今回は見送る。「ですぺら」カバ欠1000円というのもあったが、既に持っているし。「螺旋道」だったら買っていたかもしれないが。で、「続結婚礼賛」が収録されてる「文明病患者」を、と。背は焼けているが、適価か(しかし、残念ながら、帰宅後これを書いている時にちゃんと確認してみたら、なんと、持っているのは「結婚礼賛」ではなくって「無想庵無語」の方であった。あーあ、と思ったが、「無想庵無語」が発禁になりその削除版を「結婚礼賛」と改題したわけだから、まあよいのか)。

木下杢太郎「南蛮寺門前」(春陽堂大正3年7月15日初版、凾欠2000円
芥川龍之介文芸的な、余りに文芸的な」(岩波書店昭和6年7月5日初版、カバ欠1000円
杢太郎の、石井柏亭の多色木版挿絵はちゃんと入っていたが、どうも扉欠のようだ。杢太郎はまあ地下一尺集くらいは全て持っていたいなあとは思う。詩よりも小説、戯曲に興味があるので。それも凾欠で安く(なんてうまいことはなかなかない)。それと芥川のこれは、カバーがないが、ピンとした美本だったので。

岡本綺堂修善寺物語」(新潮社)昭和3年8月12日12版凾美1500円
長田幹彦「続金色夜叉」(春陽堂大正7年5月5日初版、凾欠2500円
修善寺物語』は初版は大正5年、今回のは重版だが、美本。本体表紙の木版も綺麗なまま残ってるし、よい感じ。「続金色夜叉」は、表紙と見返しが竹久夢二の多色木版装、そして口絵の多色木版は伊東深水。でもちょっとこの値段は……と思ったが、重版ならまだしも、初版と考えれば安いか。

永井荷風「麻布襍記」(春陽堂大正13年9月20日3版、凾1200円
三村清三郎「佳気春天」(書物展望社昭和10年10月16日初版、凾欠2000円
「佳気春天」は凾欠で全くかまわず安く入手したかったのでよかった。「麻布襍記」は本体はまあ美本。でも単なるえび茶クロス装だしね。で、ずっと戦前のものばかり言及してきたが、戦後のものももちろんあれこれ列んでいて、瀬戸内晴美河野多恵子と野村尚吾の署名本がズラリとあった。三島も昭和30年代の評論エッセイ集が1500均一だったが持ってるし。

佐藤春夫『霧社』(昭森社昭和11年7月15日初版、凾3500円
凾の背が少し褪色および痛みがあったが、これは安いだろうということで。本体はピンピンだし。いやあしかし、買いも買ったりだ。この他、一度抱えたけれども結局手放したものでは、『花袋叢書』(博文館)凾欠3000円、花袋『椿』(忠誠堂)凾欠1000円、村山知義『スカートをはいたネロ』(原始社)凾欠2000円等々あった。それから『柳浪叢書』(博文館)上下揃凾欠20000円は手がでなかったが欲しかったナア、と。しかしまあ、列んだ甲斐はあったといえる買い物が出来たと思う。ワタクシがもっと高所得者であれば、佐藤春夫「病める薔薇」(天佑社)初版凾美45000円とか、鏡花とか買えたのかもしれないが、まあ不相応な高望みはしないことだ。場だけでも予算めいいっぱい。この状況で年を越せるのか……という状況なのだし。そういえば、今回は漱石を見かけなかった。芥川も初版完本ばかりで、前回のように、元版重版凾欠を安く拾うことは出来なかった。そうそう、結局森田草平の「煤煙」は、第二巻と第四巻がそれぞれ初版カバ欠2000円であった。第四巻は買おうかなと思ったが、美本なのに本自体がひしゃげてしまっていた……ということで今回はパス。
まあまた来年に期待である。