漁書日誌 3.0

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趣味展とか

趣味展初日。
注文品はなし。いつものように遅くなり、閉場五分前に到着。時間がないのでほぼ扶桑の棚のみ見る。

で、結局拾い出したのがこの雑誌一冊。「文章倶楽部」(大11・1)1000円。表紙絵は懸賞の斎藤勇。
お目当てはその内容で、表紙を見ただけでこれは購入と一発で決めた。特に「文壇出世物語」や芥川やら谷崎らについて記してある記事「余技・娯楽・趣味——作家一面観」などである。この雑誌とか特にずっとそうなのだが、文壇物語とか、如何に投稿少年から作家になったかとか、そういうところにスポットを当てた編集。まあこの雑誌自体投稿雑であるし。作品、というかテクストというものよりも作家としての作者が全面に出てきて議論や憧憬の的になるという、近代作家イメージ形成史に強い興味を持っているので、この辺は基本資料というところ。やっぱり実物で少しは持っていたいし。で、ここの先に挙げた「余技・娯楽・趣味」という記事で、谷崎の当時の趣味が香水と出てくるのだが、確か細江光先生の論文で既得情報。こういう雑誌はまだねえ、一日中図書館にこもってザーッと何年分も雑誌見ていけばいいわけだが、例えば今日は「中央公論」朝から晩まで明治40年のから全部見ていく、とか。でもねえ、これが新聞になるとつらいところ。そういえばこの号、川端康成訳のダンセイニ「死のオアシス」なんて短篇が掲載されている。こういうの全集に入っているのだろうか。

そしてこれは口絵にある〈芸術家の撮影した芸術写真〉で、田中純久米正雄宇野浩二らの撮影した写真。芸術写真といえば、まあ野島康三とか淵上白揚とか別としても、ベス単フード外し(ベストポケットコダック単体レンズ付き、で、絞り解放にする)のいわゆる“眠い写真”のことだが、ベス単発売以降、新しもの好き文士がそれに手を染めていたわけで、こういうのも作家がやったっていうだけで素人なのに雑誌に出ちゃうのね。ほかにも「婦人公論」か何かで谷崎撮影の写真が出ていたと思うが、まあ「肉塊」なんていう小説(カメラマニアだった主人公が出てくる)もあるしね。幸田露伴だったか、明治期にカメラが趣味の主人公を描いた小説があった筈。カメラを主題とした明治大正期の小説というのを探していたことがあって、前に村上浪六の「写真術」という小説をわざわざ古書で買って読んだことがあったのだが、あれは写真屋の話であった。
しかしまあ、ここいらへんの雑誌はやっぱり1000円以下で欲しいところである。

さて、東京堂に立ち寄り、昨日の日記に書いた学研M文庫「東宝争議」みてみたが……これ、小説であった。著者は時代小説の人。ちょっと当てが外れたか。小説ではなくって、争議自体の流れをコンパクトに文庫でまとめた本だったら喜んで買ったのになあ。

で、これまた先日紹介した前川公美夫編著「頗る非常! 怪人活弁士・駒田好洋の巡業奇聞」(新潮社)。いま手許にあり読んでいるのだが、これがまた頗る非常によい本のようだ。ただの伝記かと思っていたらそうではなく、都新聞にかつて駒田が連載した談話記事をまとめて本邦初の復刻、しかも頗る非常に詳細な注記付きで、その他後半には頗る非常なあれこれのエピソードについてまとめてあったりして、この辺の映画関係興味ある人は頗る非常に必携ではないか、と、思われる。
この人も、大学時代に図書館に入っていた「活動倶楽部」だの「活動画報」だの繙いていくと、天上天下唯我独尊頗る非常大博士というコピーのあるなんじゃこりゃ的広告をたまに見かけ、その後「日本映画発達史」にて、ああ、あれはそうか、と知った次第。これはなかなか読み応えがありそうで期待している。