漁書日誌 3.0

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二宮君

二宮君といっても、二宮きんじろーこと二宮尊徳だ。
こないだ購入した新刊書、十川信介「近代日本文学案内」をチラチラ読んでいくと、立身出世について述べた最初の所(15頁)で、


幸田露伴の短篇『鉄三鍛』(明23)も貧しい境遇から奮起した少年が、ある学者から『西国立志編』を貰い励まされる話である。


と、書いてある。恥ずかしながら露伴のその短篇は聞いたこともなかったし、そういう独歩「非凡なる凡人」的な小説を露伴も書いていたのかーと思って、図書館に行き、明治文学全集にて当該作をコピーしてきて帰宅後に読んだところ、確かに立身出世のお話しではあったのだが、どこにも「西国立志編」など出てきやしないのである。
出てくるのは「報徳記」である。二宮尊徳の立志伝みたいなもん。「西国立志編」の「さ」の字も出てこない。えー。同じ漢字三文字でも「自助論」ではなかったのだ。
「だから何」という感じだろうが、ちょっと「西国立志編」が作中言及される小説を探していたものだから、おい、この小説目的で図書館まで行って、実際読んでみたら、著者の思い違いだったのか、ダア、というわけ。
まー、露伴は自ら「尊徳翁」すら書いているし、スマイルズというよりは報徳記だったのだろうと思われるけれど、ねえ。といってもワタクシ特にあれこれ調べてものをいっているわけではないので不正確かもしらぬけれど、それに、テクストによっては報徳記ではなく西国立志編なのかもしれず(校訂すら調べていません)、ただ重箱ケチ(重箱の隅をつつくような、本論の論理には直接関係のないごく微細なあら探しをしてそれを殊更あげつらうケチ)をつけているようだけれども、期待して読んだ分、何だかなあと思った次第。
おそらくこういう類、当時の学生投稿雑誌やら、あるいは成功雑誌社の「成功」とか、ああいうのを細かに探せば無名作家のもので結構数がありそうな気がする。